生涯の一枚、松任谷由実と山下達郎のライブ盤を振り返る

生まれた街で / 荒井由実

松任谷由実さんの「生まれた街で」。1996年12月に発売になったライブアルバム『Yumi Arai The Concert with old Friends』からお送りしております。オリジナルは1974年のアルバム『MISSRIM』の曲です。このライブは1996年8月13,14,15日の中野サンプラザで行われました。ユーミンが結婚して、荒井由実から松任谷由実になったのが1976年。その翌年1年間はお休みしているんですね。専業主婦を極めてみたいという話をしていた記憶があります。1978年から音楽活動を再開して、1995年まで毎年オリジナルアルバムを毎年作り続けてきた。年にアルバムを2枚発表する時も何度もありましたからね。そうやって走り続けてきて、一旦立ち止まって荒井由実時代の曲を振り返るというのが、このライブだったんです。バンドメンバーが、細野晴臣さんを除くティン・パン・アレー。松任谷由実さんは、日本の音楽史上初めてエンターテイメントとして魅せるライブを確立し、そういうライブをずっとやってきたんです。このライブは、松任谷由実さんのライブとは違う、少ないメンバーでじっくりと音楽を聴かせるライブだったんですね。夫の松任谷正隆さんはこのライブアルバムにコメントを寄せております。「スタッフがダメ元で提案したんだけども、すんなり受け入れられた。何よりも喜んだのが本人で、リハーサルであくびもしなかった」と、お書きになっていますね。ユーミンも「四日間のリハーサルを、音楽人生で最も集中し充実していた」と書いているんです。それぞれのメンバーも再会できてよかった、この曲を今こんな風にやれることが楽しい、素晴らしいねという気分が隅々まで詰まったライブアルバムですね。そこから、1973年のデビュー曲「返事はいらない」、1975年のナンバー1ヒット曲「あの日にかえりたい」の2曲をお聴きください。

返事はいらない / 荒井由実
あの日にかえりたい / 荒井由実

1996年12月に発売になったライブアルバム『Yumi Arai The Concert with old Friends』から「返事はいらない 」、「あの日にかえりたい 」の2曲をお送りしております。山本潤子さんと一緒ですね。ハイ・ファイ・セットのデビューは1975年2月で、デビュー曲は「卒業写真」ですね。ユーミンさんの功績はいっぱいあります。こんな音楽が出てきたんだっていう、それまで聴いたことのない日本語の音楽というのが当時の第一印象でした。女性にしか作れない音楽。片や、吉田拓郎さんや井上陽水さん、ギターで曲を作る男性シンガー・ソングライターとは全然違う音楽が始まったなと思いましたね。ピアノの弾き語り、ヨーロピアンで、フランソワーズ・アルディ、プロコル・ハルムを連想する湿った水彩画のような曲調というのもありました。個人的にはテーマ的なことも大きかった。「ひこうき雲」が自殺した少女の曲を歌ってるというのもありましたし、「生まれた街で」そして「やさしさに包まれたなら」の二曲の発想、感受性ですね。「生まれた街で」の中で、「もう遠いところへと惹かれはしない」という一節、自分が生まれた街がこんな風に見えるんだと新鮮でしたね。特に「やさしさに包まれたなら」の中の、"目に映るすべてのことはメッセージ"という歌詞、これはインパクトがありました。当時は例えば、五つの赤い風船の「遠い世界に」のように、皆遠くに行きたがるんですよ。他にも岡林信康さんのようなフォークシンガーの「メッセージ」というのは世の中に向けて何を歌うかというものでしたが、ユーミンが目に映るすべてのことにメッセージがあると歌った。そうか、“物語”というのは“物が語る”、それを感じるかどうかは、受け取る人の感受性の問題なんだとユーミンに教わりました。それでは、彼女のデビューアルバムのタイトル曲です。「ひこうき雲」。

Rolling Stone Japan 編集部

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