有料配信ライブ時代の到来 課金型オンラインライブの成功者が語る

ライブ配信は、ライブ音楽に取って代るのだろうか? ほとんどのストリーミング会社の幹部はこの質問をはねのけ、両者を同等とみなすのは間違っていると本誌に語った。ライブ配信はあくまでコンサートを補足するもの、あるいはまったく別の体験を生み出すものなのだ。

「コーチェラの魅力に取って代るものなんて存在しないと思います——今後もコーチェラの代わりなんて出てこないでしょう。でも、デジタルの面白いところは、『オーディエンスとコミュニケーションを取るためのいままでとは違う新しい手段があるよ!』と誰もが口を揃えて言っていることです」とシャーベル氏は述べた。「現在の私たちが思うようなライブを誰もがただオンラインにアップすれば、やがては失敗します。この勢いの原動力は、デジタルに特化したライブをつくろうとしている人々から来ているのです」。

ウェイナーは、自身のライブ配信番組をコンサートではなくバラエティ番組になぞらえる。結果的にこれは、ほかのライブ配信との差別化において極めて重要な要素となった。「これは、まさに舞台芸術なんだ。教会での礼拝、ストリップクラブ、パンクロッククラブ、ソウルミュージックのバラエティ番組だ」とウェイナーは語る。熱狂的なファンのなかには、ライブ配信を楽しむ自身の動画や写真をウェイナーに送るものまでいる。「僕らは一緒に泣き、声を出して笑う。でも大切なのは、これがオープンな語らいの場だってこと。僕は、ファンのみんなに踊ったり、体を動かしたり、バンドの一員のような気分になってほしいんだ。僕はいつも誰かの髪をクシャクシャにしたり、ハグしたり、客席にダイブしたりするのに慣れているけれど、ここには別の何かがある。魂で触れ合えるんだ。すべては一瞬限りのライブ・エンターテイメント。まさに予測不能だ」。

トラヴィス・スコット、ジョン・レジェンド、ザ・ウィークエンドといったメジャーアーティストは差別化を図ってAR(拡張現実)を使ったコンサートに打って出たし、Verzuzのラップバトルもこうしたユニークなコンセプトにもとづいている。それと同時に、ほかのアーティストも目立つために有料ライブ配信会社を積極的に探している。NoonChorusやMaestroは、取引のほとんどはエージェントではなく、アーティストのマネージャー直々によるものだと語る。エージェントがアーティストのコンサートのブッキングを担当する従来のシステムとは対照的だ。

Maestroのウドゥコ氏は、このプロセスからシャットアウトされたことにエージェントが口を揃えて「懸念を示している」と指摘する。「いまは、戦争のような状態なんです。レコード会社は自分たちに何ができるかを必死に模索していますし、プロモーターは新しい道を切り開こうとしています。そんな状況で、ただ誰かのライブ配信をブッキングしただけで手数料がもらえると思いますか?」もちろん、エージェント側も積極的に関わろうとしている。イベントに付加価値を与える方法を求めてエージェントのほうからMaestroにコンタクトを取ってきたこともあるとウドゥコ氏は言い添えた。

ジェンセン氏も同じように考えている。彼は、これから数カ月にわたってこのシステムが成長するにつれて、より複雑になると語った。「私たちが一緒に仕事をするエージェントやマネージャーは、自分たちのアーティストの利益を最優先に考えています。それにしても、妙な時代になりました」とジェンセン氏は続ける。「いまは、自分はどこにフィットするのかを各自が必死になって模索している状態ですし、これは時間の経過とともにますます明確になっていくでしょう。誰もが少しずつ違うリアクションをしているので、ロードマップやテンプレートがあるとは言い難い状況です」。

ジェンセン氏と米タレント・エージェンシーのWilliam Morris Endeavor Entertainmentのエージェントで、同社のライブ配信事業を任されているマリッサ・スミス氏は、新たなチケット制有料配信エコシステムを開拓時代のアメリカ西部になぞって「ワイルド・ウエスト」と呼んでいる。

「当初は、人々にこのアイデアを理解してもらうのは困難でしたが、先の見えない状況が続くなか、私たちのクライアントが以前よりも興味を持ってくれることに気づきました」とスミス氏は語った。「パンデミック中も私たちは50を超えるライブ配信プラットフォーム会社やIT会社と話をし、チケット販売、チップの問題、寄付ボタン、位置情報を使ったサービス、ミート&グリートといったさまざまな可能性について議論しました。我が社のデジタル部門と音楽部門のコラボレーションを考慮すると、このスペースを無視するのはクライアントにとって重大な害を与えることになります」。

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米大手エージェンシーのICM Partners——ザ・ブラック・キーズやミーゴスといったアーティストを担当——もライブ配信の強化体制を維持し、アーティストとブランドのパートナーシップ契約を円滑化し、チケット制有料配信により本格的に乗り出している。同社でエージェントを務めるミッチ・ブラックマン氏(カマシ・ワシントンやブラックベアーなどのアーティストを担当)は、こうしたイベントに特化した社内タスクフォースが発足したと語った。

ブラックマン氏は、チケット制有料配信がアーティストのおもな収入源となり、エージェンシーの収入の新たな柱となる一方、こうした配信はライブやコンサートの穴をふさぐ「バンドエイド」的なものにすぎないと語る。そんなブラックマン氏でさえ、コロナ収束後もライブ配信は生き残るだろうと考える。

ライブ・エンターテイメントの復活によってライブ配信とコンテンツがかぶってしまうことに対し、ブラックマン氏は懸念を抱いていない。「これはただのライブではありません。まったくの別物です」と彼は言う。「まったく別のフィールド——音楽業界における新たなフィールドとなるでしょう」。

Translated by Shoko Natori

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