BLMで再注目、名曲「奇妙な果実」の歴史的背景と今こそ学ぶべきメッセージ

カバー/サンプリングが示す普遍性

ホリデイは長年この曲を歌い続けたが、とりわけ1959年に彼女が亡くなって以降、「奇妙な果実」はやや下火になった。ニーナ・シモンが彼女のバージョンを録音したのは1965年、次いで1972年の伝記映画『ビリー・ホリディ物語/奇妙な果実』で、ホリデイ役を演じたダイアナ・ロスがこの曲を歌った。しかし70年代には、ミーアポルは自分が最も誇るこの曲の行く末を案じていた。息子のロバートはこう回想する。「彼がこう言ってたのを覚えてる。『お前たちにはもっと楽させたいのだが。あの曲がもっと聞かれたら、使用料がもっと入るだろうにな』と」。




1964年撮影のニーナ・シモン(Photo by Getty Images)

1980年には新しいバージョンが登場した。UB40が「奇妙な果実」をレゲエのグルーヴで作り直したのだ。また、友人であるピート・シーガーが、アルツハイマーを発症し養護施設に入っていたミーアポルを見舞って、テープに録音したこの曲を聴かせたのもこの年だった。自分の曲はいますぐにでも忘れ去られてしまうのではないかという思いのまま、ミーアポルは1986年、83歳で亡くなった。自宅での追悼集会では、旧友が「奇妙な果実」を演奏した。

ほかにもカバーはいくつか登場した。たとえば、スージー・アンド・ザ・バンシーズが1987年に発表した、ストリングスたっぷりのカバー。90年代の初頭には、トーリ・エイモスが簡素なカバーをリリースし、またジェフ・バックリィはニューヨークのクラブSin-éでのライヴセットでこの曲を定期的に演奏した

そして1996年には、カサンドラ・ウィルソンがアメリカ南部を主題にした曲を集めたアルバム『ニュー・ムーン・ドーター』にこの曲を収録している。彼女が「奇妙な果実」を収録しようと思ったのは、2つの理由からだという。彼女の母親がかつて、リンチを目撃したときのことを教えてくれたことがひとつ。そしてまた、ウィルソンが奴隷制という主題を音楽ビジネスのあり方に結びつけたことがもうひとつ(その3年前、プリンスが顔に「奴隷(slave)」と描いてワーナー・ブラザーズからの扱いに抗議したのは周知の通り)。「奴隷制は過去のものなんかじゃない」と彼女は言う。「音楽ビジネスは奴隷制と同じ要素をたくさん持ってる。だから、私はなにかを予測していたのかもしれない」

『ニュー・ムーン・ドーター』はグラミー賞の最優秀ジャズ・ヴォーカル部門を勝ち取ることになった。ロバート・ミーアポルは、ウィルソンのバージョンがこの曲への関心を再び高める助けになったと考えている。



そしていまや、この曲は60組以上のアーティストたちによってカバーされている。近年の例ではアニー・レノックスインディア・アリー、それにファンタジアの名もある。また、この曲がヒップホップで取り上げられてきたのも印象的だ。過去20年以上に及んで、キャシディの「Celebrate」やピート・ロックの「ストレンジ・フルーツ」といった曲がこの曲をサンプリングしてきた。ラプソディの「ニーナ」もそこに含まれる。

ラプソディは、ヒップホップのアーティストはこの曲の歌詞にも、この曲を歌ったホリデイやシモンのようなソウルフルなシンガーたちにも惹かれているのだと考えている。またある者は、この曲の冷ややかなメロディに潜む政治的な怒りこそ、今日いっそう共鳴しているもうひとつの理由ではないかと示唆した。「ヒップホップ世代がこの曲を胸に迫るものと感じているのだとしたら、彼らはこの曲を悲しげだとは捉えていないはず」マイケル・ミーアポルは言う。「エイベルは死者を悼んでいたわけではなく、殺人を行っていた南部の人々を告発していた」。ウィルソンも同意見だ。「とても怒りに満ちた曲。“飛び出した目玉にねじれた口元”。すごく、めちゃくちゃ描写的だ。こんなふうに聞こえる歌詞がほかにどれだけあるだろう?」

Translated by imdkm

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