民謡が邦楽にもたらす影響とは? はっぴいえんどや裏・邦楽史について

みのが出会った邦楽をたどる書籍。『さよならアメリカ、さよならニッポン』

最近、邦楽を通史で論じる2冊の本に出会った。まず1冊目がマイケル・ボーダッシュ著の『さよならアメリカ、さよならニッポン ~戦後、日本人はどのようにして独自のポピュラー音楽を成立させたか~』

タイトルからも見ても明らかなように、はっぴいえんどとそのメンバーの活躍を中心軸に置きつつも、所謂「はっぴいえんど中心史観」に陥ることなく、戦前のジャズシーンからCHAGE AND ASUKAまで縦横無尽にまとめあげている。特筆すべきは戦前戦後のジャズシーンに関する記述だ。この辺りのムーブメントが戦後歌謡曲の成立に果たした影響は大きく“東京ブギウギ”や“銀座カンカン娘”を世に送り出した作曲家・服部良一も、もともとはジャズマンであった。

驚いたのがジャズ民謡という混成ジャンルが一時人気を博していたという記述である。江利チエミ等の大物歌手がジャズのアンサンブルをバックに、“おてもやん”を歌う、といった光景が日常的であったわけだ。そしてその後、民謡的なメロディ感覚は、ポップスとしての戦後歌謡に受け継がれていくわけである。これは個人的に目から鱗が落ちるような発見だったが、同時に己の不学を実感せざるを得なかった。

裏・邦楽史の趣を見せる1冊『ジャップ・ロック・サンプラー』

もう1冊が、ジュリアン・コープ著の、少々眉をひそめたくなるタイトルを冠した『JAPROCKSAMPLER ジャップ・ロック・サンプラー -戦後、日本人がどのようにして独自の音楽を模索してきたか-』である。

非常に事実誤認が多く、勢いに任せて書かれたような印象を覚えざるを得ないのだが、試みとしては面白く『さよならアメリカ、さよならニッポン』とは異なり、意図的かと思える程にはっぴいえんど人脈を無視し、アウトサイダー的なアティテュードをもって、よりアヴァンギャルドな活動をしたアーティストにフォーカスしている。こっちは言わば裏・邦楽史といった趣だ(ここでも逆説的にはっぴいえんどの磁力の強さ感じざるを得ないのだが)。

邦楽の縦軸批評の不在が招くものとは

皮肉にも両方とも外国人による著書であって、国内のこういった試みが如実に少ない事実を痛感せざるを得ない。縦軸の批評が不在だと、戦前、あるいはそれ以前から存在する豊かな邦楽の数々のエピソードは、統合されることなく徐々に朧げなものとなっていってしまうのではないか。例えばJ-POPの語が登場し、不必要なアイデンティティの挿げ替えが発生して、それ以前の邦楽とは別人格の如く振る舞いはじめたように。

※みのミュージック連載「みのミュージックの令和ロック談義」は今回で最終回となります。ご覧いただきありがとうございました。

Edited by Aiko Iijima


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