追悼チャドウィック・ボーズマン、キングよ永遠なれ

2018年にロンドンで行われた『ブラックパンサー』の欧州プレミアで撮影されたチャドウィック・ボーズマン。(Photo by Gareth Cattermole/Getty Images for Disney)

『42〜世界を変えた男』(2013)で黒人大リーガーのジャッキー・ロビンソン役を、『ジェームズ・ブラウン〜最高の魂を持つ男』(2015)でジェームス・ブラウン役を演じ、『ブラックパンサー』(2018)に主演したチャドウィック・ボーズマンの死を悼む。ボーズマンは見事なレガシーを私たちに遺してくれたが、彼の不在によってその偉業はまだ未完成のように感じられる。

スーパーヒーローになる前のチャドウィック・ボーズマンは、映画スターだった。ボーズマンには、言葉で言い尽くせないような何かがあった。それは、まるで映画館のスクリーンの下から6メートルほどの高さに投影された、リアルで共感できると同時に偉大な彼の姿を前に人々が涙を流し、怒りに我を忘れ、恋に落ちる瞬間を愛さずにはいられないような、スターとしての素質が最初からボーズマンには備わっていた。私たちの多くにとってすべての始まりは、黒人大リーガーのジャッキー・ロビンソンの半生を描いた映画『42〜世界を変えた男』(2013)だった。ブライアン・ヘルゲランド監督がボーズマンを同作に起用した当時、彼はまったくの無名俳優というわけではなかった。というのも、ホームドラマ、警察物、『ER緊急救命室』、『JUSTIFIED 俺の正義』など、すでに数多くのテレビ作品に出演していたのだから。とはいっても、彼の名前はお茶の間にまで浸透しているわけではなかった。そんなボーズマンを野球界に立ちはだかる人種の壁に挑むブルックリン・ドジャース(現ロサンゼルス・ドジャース)の選手役に起用するのは、ギャンブルだった。

ボーズマンは、のちにアイコニックな実在の人物を複数演じることになるのだが、当時35歳のボーズマンが披露した最初の文化的アイコン、ロビンソン役の演技を見ると、彼にはカリスマ、センス、そして一種の自信が備わっているのは明らかだった。人種差別的なヤジにさらされ、野球愛と自身に向けられる憎しみとの折り合いをつけようと苦悩する偉大な大リーガーの葛藤をボーズマンは演じた。彼は背番号42にふさわしい運動能力と優美さをもってこの役に挑み(執筆および俳優としての活動に目を向ける前、ボーズマンは高校野球選手だった)、グランド、ロッカールーム、公の場での隙のないロビンソンを演じ切った。『ブラックパンサー』に主演するずっと前からボーズマンは、心のなかの混乱を隠すためにロビンソンが被らざるを得なかったストイックな仮面のような表情を取得していたのだ。そんなボーズマンは、必要なときには超有名人としての鎧を解き、隠された苦しみを私たちにさらしてくれた。

チャドウィック・ボーズマンは、4年の闘病生活の末、米現地時間8月28日に43歳で他界してしまった。米南東部サウスカロライナ州のごく普通の青年だった。ボーズマンには、人種差別の傷痕が根強く残る国でアフリカ系アメリカ人として成長した自らの経験があり、芸術という夢を応援してくれる愛情深い家族がいた。10代の頃にストーリーテリングに魅了されたボーズマンは、ハワード大学(訳注:首都ワシントンに所在する私立大学で、米国屈指の名門黒人大学)で監督業を学ぶため、ディレクティング・プログラムに志願する。そして夏にはオックスフォード大学に交換留学し、演技を学んだ(のちにボーズマンは、彼の友人であり、師でもある女優のフィリシア・ラシャドが知人に頼んで海外留学費を援助してくれたと明かした。学費を支払ったのは、デンゼル・ワシントンだった)。卒業後はニューヨークに移住し、その後はロサンゼルスを拠点に駆け出しの俳優として生計を立てながら、常に執筆活動を続けていた。『42〜世界を変えた男』で有名になり、『ジェームズ・ブラウン〜最高の魂を持つ男』(2015)でジェームス・ブラウン役に抜擢されてからも、NFLを描いたスポーツドラマ『ドラフト・デイ』や映画『キング・オブ・エジプト』(2016)といった作品に出演する合間を縫って演劇の脚本を執筆し続けた。「俺たちのカルチャーには、語られていないストーリーが山ほどあるんだ。なぜなら、それが本当だとハリウッドが信じてくれなかったから」とのちにボーズマンは語っている。「アフリカ系アメリカ人が活躍する歴史の断片を覗くのは、すごくクールだと思う」。勝利と冒険が織りなすストーリー、遺跡の発掘調査、SF的な大胆な未来を描いた作品、スタジオ製作による超大作映画、スーパーヒーロー物など、数え上げるときりがない。

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Translated by Shoko Natori

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