コロナで財政難が深刻化した米郵便公社、音楽業界でトラブル頻発

キャメロン氏の発言に対し本誌はUSPSの代表のコメントを求めたが、回答は得られなかった。その一方、USPSは仕分け機の撤去などを「偽の情報」と主張する内容の文章を公式ブログに投稿した。その投稿には、「資源とボリュームのバランスは取れています」と書かれていた。「稼働可能時間に対する仕分け機とフラットマシンの実際の稼働率はわずか3分の1ほどで、仕分け機が32パーセント、フラットマシンが38パーセントです。郵便物のボリュームが急増しても、対応する余地は十分あります……(デジョイ郵政長官は)こうした機材の査定や撤去を自ら提案してはいないものの、選挙期間中は仕分け機の撤去を中止するよう指示しました」。本誌の取材に応じたUSPSユーザーの音楽レーベルがオンタイムの配達に問題を抱えるのに対し、UPSやFedexといった民間の物流会社の利用者からはこうした声はあがっていない。

「メディア・メールはとても重要です」とデヘイズ氏は言う。「フィジカルなグッズから得られる収益には限界があります。私の知る限り、裕福になるためにインディーズレーベルを立ち上げた人はいません。でも会社という規模にまで成長した以上、従業員の給料やオフィスの賃料などは払い続けたいのです」。

その上Arrowhawk Recordsは、配送中の破損という予期せぬコストの負担まで強いられることになった。同レーベルは先日、もっと大きくて緩衝材の豊富な梱包を提供してくれるよりハイグレードな輸送業者に切り替えたものの、Arrowhawk Recordsの7年の歴史においてここまで多くの破損が生じた夏は経験したことがないと語った。「破損が生じるごとに、楽しみに待っていたファンをがっかりさせてしまいます」とデヘイズ氏は言った。「代わりの品物を用意し、追加の配送料も負担しなければいけません」。こうした破損がUSPSによるものだと特定する手段はないと語る一方、夏の配送にはレコードの反りというリスクがともなうと説明した。数週間に及ぶ配送のせいで、レコードが反ってしまうリスクも上がるのだ。

デジョイ郵政長官は、先日の声明で「中間サービスの低下は、起きてはならないものである」と認めた。さらにUSPSは「根本的な原因を特定・是正し、全力で問題解決に取り組む」と主張している。「パンデミック、自然災害、予期せぬ事態などによるプレッシャーといったサービスのパフォーマンスに関連するいくつもの要因はあるが、USPSのパフォーマンス全体は改善され、やがては当初のパフォーマンスレベルを上回るものと確信している」とデジョイ郵政長官は述べた。「これは、全組織に対するコミットメントである」。

残念ながら、デジョイ郵政長官の声明はこれ以上具体的なことは何ひとつ教えてくれない。USPSが不安定な財政状況を認める一方——ブログに投稿された前述の文章は、2020年の損失が110億ドル(約1兆1700億円)だったことに触れた——、USPSは「改善に向けた取り組みは、選挙後に開始する」とも述べている。

とはいっても、大統領選が行われる11月はまだ2カ月先だ。すでに半年にわたる戦いをくぐり抜けてきた音楽レーベルにとっては、長い時間である。米東部メリーランド州のCarpark Records——トロ・イ・モアとスピーディー・オーティズが所属——のオーナーのトッド・ハイマン氏は、こうした問題のほとんどは、USPSをめぐる政治ドラマが表沙汰になる前、パンデミックの始まりとともに生じるようになったと言う。Carpark Recordsにとっていちばん大きな問題は、国際宅配便の遅延だとハイマン氏は語る。「ときには、ヨーロッパ向けの荷物がクイーンズのジャマイカの倉庫に2週間引き止められてからようやく発送されるんです」とハイマン氏は本誌に語った。「荷物の紛失も何度かありました。パンデミック前は2週間で届いていた国際宅配便がいまでは2〜3カ月かかると考えるようになりました」(Arrowhawk Recordsが海外から受けたオーダーも「長々と待たされた挙句、大幅に遅延した」とデヘイズ氏は言う)。

Carpark Recordsは、米国内の郵便物においても問題を抱えている。「オンラインでUSPSに翌日の集荷を依頼します」とハイマン氏は言う。「たいていは来てくれるのですが、ときどき来ない場合もあります。そんなときは再度依頼しなければいけません。でも、わかっています。彼らだって忙しいんですよね」。

そこにUSPSの低迷が重なる。複数の音楽レーベルは、コロナ禍においてフィジカル商品のD2C(訳注:ECサイトなどを通じて消費者へ直接販売するモデル)注文が実際増えていることを本誌に語ってくれた。だが、USPSの問題によってその恩恵を得られずにいるのだ。

デヘイズ氏は、この困難な時期に郵便受けに届くアナログレコードについて次のように言う。「鎮静薬のような存在です。つらい一週間を過ごしたあとはとくにそうです……郵便配達員がアナログレコードの包みを抱えて来るのを見るだけで、心がパッと明るくなるんです。いまは誰にとっても苦しい時期ですが、数カ月も前から予約してくれたアルバムをファンが受け取れないのは、本当にイライラします。手元に届くことでせっかくファンを元気づけられるのに」。

さらにデヘイズ氏は、パンデミックの初めの頃にArrowhawk Recordsの売り上げがかなり伸びたと言い添えた。それでも注文に対応するため、狭いオフィスで従業員に作業させる気にはなれなかった。彼女は抱えている3つの仕事が終わった夜間と週末にひとりでこなそうとしたが、最終的にフルフィルメント(訳注:ECサイトなどにおける受注から配送までの一連の業務)業者を雇うことにした。「業者を雇ったことで、心からほっとしました。トンネルの先の光が見えたような気分です」とデヘイズ氏は言った。「でも、追跡情報が更新されず、何週間もアナログレコードがどこにあるかわからないという別の問題のせいで、あのときのほっとした気持ちはすぐに消えてしまいました」。

Translated by Shoko Natori

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