Phewが語る時代の閉塞感「絶望的にもなるけど、私は音楽を続けていく」

Phew(Photo by Masayuki Shioda)

 
日本のパンク/ニュー・ウェイヴの先駆者であり、レジェンドでもあるPhew。デビューから40年経った今も、彼女はDIYなパンク精神やオルナタティブな実験精神を失うことなく、近年ではヴィンテージ・シンセを使って独創的な電子音楽を生み出してきた。

そんななか、イギリスのレーベル、ディサイプルズから近年の音源を集めたコンピレーション・アルバム『Vertigo KO』がリリースされた。日本盤は限定カセット『Vertical Jamming』の音源を収録したボーナス・ディスク付きの2枚組仕様で、ここには2015年から2019年までのPhewの軌跡がユニークな視点でまとめられている。社会が閉塞化していった2010年代。Phewはどんな想いで音楽を作り続けてきたのか。新作を中心に話を訊いた。


—今回のアルバムはディサイプルズからのオファーだったそうですね。

Phew:海外でリリースされていない音源を集めたアルバムを作りたい、という話だったんです。それで未発表曲の音源を送ったんですけど、先方が選んだ曲がとても面白かったです。自分だったら選ばないような曲ばかりで。

—自分だったら選ばない曲、というのはどんな曲ですか?

Phew:例えば、ライブ会場限定のCD-Rを作っているんですけど、その『Vol.5』から3曲選んできた。その3曲はメロディもないし、聴きやすいものじゃないんですよ。そういう曲を選んできたのが面白いなって思ったんです。あと、『Voice Hardcore』(2017年)のアナログに入らなかった曲を選んだり。あのアルバムは声だけを使って作っていて一般的に聴きやすいものじゃないんです。それを比較的聴きやすいレインコーツのカバー曲(「The Void」)の後に持って来た曲順も新鮮で。とても開かれた耳というか、すごく自由な感じがしたんです。

—選曲だけではなく、レーベルが提案した曲順もユニークだった?

Phew:そうですね。それでアルバムとしての一枚の繋がりというか、まとまりを考えて新曲2曲を追加したんです。

—『Vertigo KO』は単なるコンピレーションではなく、レーベルとPhewさんとのコラボレーションから生まれた作品なんですね。

Phew:先方のアイデアをもとにして、お互いにアイデアを出し合いながら作っていきました。向こうが私の曲をよく聴いていて、私が忘れているようなことも知ってるんですよ。だから、やりとりするのは楽しかったですね。



—ライブ会場限定のCD-Rというのは、どういった性格の作品なのでしょうか。

Phew:アルバムにまとめるということを一切考えず、数時間で作った曲を、とりあえず20分ぐらい貯まったら会場で販売していました。アルバムとは別ものだと思ってたんです。

—制作期間の速さが重要だった?

Phew:家で録音して数週間で出せる。時間をかけていないので聴き直すと思いがけないところがあって、そこが面白かったりするんですよね。でも、CD-R『Vol.5』はフリーのソフトウェアだけを使って録音しようっていうのが、いちばんのきっかけでしたね。電子音楽って、モジュラーシンセ・ブームみたいに機材だけが問題になることが多くて、それはちょっとバカバカしいと思ったんです。もちろん高価な機材を使うと良い音が作れるっていうのはあるんですけど、そういうことに対する反発みたいなものもあったんです。

—アルバムのセルフライナーノーツによると、「The Very Ears Of Morning」は「ただただ耳に心地良い音楽」を作ろうとした曲だとか。

Phew:そうです。でも、途中からノイズが入ってくるでしょ? 作ってて飽きちゃったんですよね(笑)。

—ノイズが侵入してきて空気が変わっていくところが面白いですよね。

Phew:ポーリン・オリヴェロスみたいな音楽も好きなんですけどね、耳が喜ぶような。でも、絶対的に美しいとか、気持ち良いと思える音楽なんて無いんじゃないかと思います。あと、作ってて飽きたのには音質の問題もあって。メロトロンで同じことやると1時間くらい聴いていられるんですけど、私にはある種のデジタルの音は薄っぺらいし耳に刺さってくる。これって本当に好みの問題だから、アナログが良いってあまり言いたくないんですけどね。生音が一番素晴らしいのはわかってるんですけど、今は全部の音を生で録るのは経済的にも難しい時代ですから、あまり生音の良さを強調したくはない。

—そういう経済的に厳しい環境で安価な道具を使って音楽を作るというのは、パンクやヒップホップに通じる発想ですね。

Phew:そうですね。若いアーティストが簡単な機材で面白いことをやっているのを配信とかネットで見つけると、良いなって思いますね。

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