Phewが語る時代の閉塞感「絶望的にもなるけど、私は音楽を続けていく」

 
レインコーツと自分のジェンダー

—新作にはレインコーツ「The Void」のカバーが収録されていますが、アメリカのラジオ局の企画で制作されたとか。Phewさんはレインコーツのアナ・デ・シルヴァとの共演作『Island』を2018年にリリースされていますが、この曲を選んだ理由は?

Phew:単純にいちばん好きな曲だからです。レインコーツってポストパンクの象徴的な存在として語られることが多いじゃないですか。私も同じ時期にアーント・サリーっていうバンドをやっていて、自分も(ポストパンクの)当事者だったりするんですけども、そういう文脈から離れたいと思ったんです。「The Void」は1stアルバム(『The Raincoats』)に入っている曲なんですけど、アルバムが発表されてから40年経ってるじゃないですか。私もアーント・サリーをやってから40年経ってて、その40年という時間の隔たりを表現したくて、4つのテンポがズレたリズムボックスを使ったんです。



—なるほど、面白いアプローチですね。40年前、レインコーツは聴かれていました?

Phew:アーント・サリーのアルバムが出た頃、(レインコーツの)1stが出たんじゃないかな。アーント・サリーを結成した当時、アメリカにはランナウェイズがいて、日本にもギャルっぽいバンドがいたけど、ほとんど作られた女の子バンドばっかりだったんです。そんななかで、トーキング・ヘッズのティナ(・ウェイマス)が出てきた時は嬉しかったですね。まず、彼女が弾くベースが素晴らしかった。それに女の子っていうことを売りにしないで、バンドの重要な位置でナチュラルなスタンスで音楽をやっている。レインコーツもティナに近い雰囲気がありましたね。イギリスではスリッツという女の子バンドもいましたけど、彼女たちは派手めな話題を振りまいていた。レインコーツはちょっと違って肩肘張らずに音楽をやっている。メンバーがたまたま全員女の子だった、みたいなナチュラルさが魅力でしたね。

—以前、レインコーツのアナとジーナに取材したことがあるんですけど、「いかにもパンクな格好をするのはイヤだった」「音楽もファッションもナチュラルなのがいちばん」だと言ってました。

Phew:彼女たちは全然ショーアップされてなかったでしょう? それがすごく嬉しかった。私は当時、自分のジェンダーとかそういうことをあんまり考えたことがなかったんです。(当時、メディアから)「少女」とか「変わった女の子バンド」みたいな風に取り上げられることが多くて、それがほんとにイヤでイヤで。そういうことを引き受けてやっていく強さもなかった。プロンディのデボラ・ハリーとかパティ・スミスみたいに、そういうものを引き受けたうえで自分のやりたいことを実現していけるような器の大きな人だったら良かったと思いますよ。だけど私は、ほんとに限りなく器の小さい人間で(笑)。当時はインタビューで、まともに音楽の話を訊いてもらえなかったしね。

—最近、女性が積極的に声を上げるようになってきましたが、そういう動きについてはどう思われますか?

Phew:それはケース・バイ・ケースとしか言いようがないですね。そりゃ、私だっていっぱい言いたいことはあります。ジェンダーってことで考えた時、不満は山ほどあるし、不当だと思うこともたくさんあります。でも、それだけで発言してしまうのは、ちょっと乱暴かなって。なにか問題になる出来事があったら、それを一つ一つ丁寧に見ていって「あ、ここは違う」とか、そういうことは考えますけど、ひと言で「こうだ!」みたいなことは言えないですね。必要であれば私も発言しますけど、マドンナや大坂なおみみたいな影響力はないし(笑)。

—いや、Phewさんも充分、影響力ありますよ。比べる相手が大きすぎます(笑)。

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