コロナ禍でも大盛況、「伝説のスタジオ」アビー・ロードが実践する新たな取り組み

Zoom経由で遠隔レコーディング

ライブストリーミング以外にも、新たな方法でアビー・ロードを利用するアーティストは他にもいる。ビートルズファンなら「愛こそはすべて」のミュージックビデオでおなじみの第1スタジオには、広い空間をパーカッションが埋め尽くし、ハープとの間にはCOVID-19対策として仕切りがおかれている。現在ここでは、『アナと雪の女王』や『ハングオーバー!』シリーズのサントラを手掛けた作曲家クロストフ・ベックが、カート・ラッセルがサンタを演じるNetflixの新作映画『クリスマス・クロニクル2』のサントラのオーケストラパートを収録中だ。ミュージシャンがアビー・ロードで演奏し、ベックはサンタモニカの自宅から一部始終をチェックしている。


6月、オーケストラの収録用にレイアウトされたアビー・ロード・スタジオの第1スタジオ(Photo by Carsten Windhorst/Abbey Road Studios)

「パンデミックやソーシャルディスタンス・ルールの対応策のひとつとして、アビー・ロードで一度に収録できる演奏家の数を制限しなくてはならなかった」とベック。「たしか今は40人までだったかな、基本的に1度に1セクションしか収録できないんだ。まず弦楽器のパートから録音する。サントラのどの曲でも一番出番が多いのは弦楽器だからね。今回のような状況だと、演奏家は後ろから鳴り響くトランペットを聞くことができない。だから事前にプランを練って、『譜面を見るとここはトランペットが鳴り響くところだから、それを頭において、負けないように少しばかりアグレッシブに演奏してくれ』と演奏家に伝えなくてはならない。そういったところが、これまでの仕事のやり方とは少しばかり勝手が違う点だね」

サントラ収録には9日間しかかけられないため、ベックのチームは時間を有効に使って、始めに弦楽器を収録し、次に管楽器、そして微調整が必要な時に備えて再び弦楽器を収録している。ミュージシャンや指揮者との会話はZoom経由でほぼ同時進行で行えるので、職場環境もばっちりだ。いつもの収録だとオーケストラの各ポジションから各楽器の音が聞こえてくるが、すべての楽器が一箇所から聞こえてくる点も気に入ったようで、今後こうしたやり方を続けてゆくことになるかもしれない。それでもやはり現地に赴いて、演奏家と言葉を交わしたり、カフェで食事できたら、と思う。「アビー・ロードのような、数々の逸話が残る歴史的場所に立った時の感動が恋しいよ」

「再び仕事に戻り、愛する場所、憧れの場所で音楽ができるようになっただけで、みんなありがたいと思っています」とジロット氏も言う。「世界で音楽の鼓動が再び響くようになり、あらためて音楽は私たちの生活に重要な存在なんだと実感しました。音楽がない生活は、予想以上に静かです」

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From Rolling Stone US.

Translated by Akiko Kato

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