TikTok米国利用禁止、どうなる音楽業界?

はやくも2019年1月には、国際経済問題について分析・政策提言を行う米シンクタンクのピーターソン国際経済研究所は、「The Growing Popularity of Chinese Social Media Outside China Poses New Risks in the West(中国製SNSメディアの中国国外での人気増加に伴う欧米への危険性)」と題したレポートのなかであからさまにTikTokに言及している。2019年2月にTikTokは、同アプリが「児童の個人情報を違法に収集していた」と主張する米連邦取引委員会と和解するため、570万ドル(約6億3000万円)の罰金を払っている。2019年の終わりには、共和党のマルコ・ルビオ上院議員が対米外国投資委員会に対してTikTokの調査を要請した。民主党のチャック・シューマーや共和党のトム・コットンといった上院議員も党の垣根を超えて米国家情報長官に類似の要請をしている。それに伴い、米陸海軍は兵士と船員のTikTok使用を禁止した。

だが、音楽業界はこうした危険に目をつぶり、楽観視を続けた。なぜなら、TikTokが次々とヒット曲を量産してくれたから。とはいっても、すべての人がこのアプリに夢中になったわけではない。あくまでオフレコの話としてだが、アーティスト&レパートリー担当者たちはTikTokに対するレーベルの執着は、アーティストのメリットという観点ではわずか、あるいはまったく意味のない、ワイルドで馬鹿げたバブル市場を生むと喜んで指摘するだろう。レコード会社はTikTok内で動いているあらゆるものを追いかける。彼らは、どうにかして注目してもらおうとあの手この手でくだらない仕掛けを披露するユーザーの投稿だって何も考えずに追うのだ。「人々は、サウンドエフェクトのために大金を注いでいるのです」とあるレーベル幹部は不満を口にした。

ストリーミング市場のシェアを増やす——これこそがレーベルの主な関心事である。ストリーミング市場は収益源であるからこそ、知名度がぼほゼロでもTikTokでブレイクしたアーティストにレーベルが膨大なキャッシュを与えることも少なくない。「私が見てきた限り、TikTokで少し動きのあるユーザー——その子のInstagramフォロワーはたった6000人ですが——に対して提示された金額は、実に馬鹿げています」とアーティスト・デベロプメント・コレクティブのdrtymndの創業者兼CEOを務めるカヨーデ・バドマス・ウェリントン氏は語った。ウェリントン氏は、エピック・レコードやPulse Music Groupで働いた経歴の持ち主だ。「TikTokで5000回再生される歌付き動画が200万ドルの契約をとりつけるのです」と同氏は語る。全体的に見ると、手軽な成功を追い求めるのは向こう見ずに感じられるだけでなく、実際には無謀でもある。

しかし、しかるべき人の手に渡れば、TikTokは統合によって狭き門となった音楽業界——2020年だというのに、マスに届けるべきアーティストが誰かをごく少数の“門番たち”が決めているような業界——の門戸を広げられる。同アプリは「ラジオでオンエアしてもらい、ビジネスとして成功するには膨大な予算が必要とされる旧体制から権力を奪った」とマーケティングとマネージメントを行うATGの創業者、オミッド・ヌーリ氏は述べた。

YouTubeとSpotifyはすでにこのプロセスに着手している。少なくとも理論上は、アーティストに大手レーベルの体制という正攻法をかわし、彼らが独占するヒットメイカーとしてのポジションを崩すためのサポートをしているのだ。だが、こうしたプラットフォームにも独自の“門番”がいるのも事実で、彼らは大手レーベルと密接につながっている。それに対するTikTokでは、十数人の無名のティーンエイジャーが翌日何かを投稿しただけで、翌週には初のヒットを生み出すことも可能だ。こうしたものの多くは“旧体制”によって飲み込まれてしまうが——カーティス・ウォーターズ、KINGMOSTWANTED、トリル・ライアンといった独立を保ち続けた例外的アーティストもいる——TikTokのボリューム、スピード、アクセシビリティは前代未聞である。

アクセシビリティが後退する一方、TikTokのない世界では、一時的にせよ一部のアーティストのポジションは相対的に向上するだろう。レーベルは(パンデミックが収束に向かうにつれて)、ピカピカの新品のおもちゃに飛びつく代わりに、突如として盤石なツアー経歴を持ちながらもデジタルに弱いグループに興味を示す可能性はある。TikTokではラップやアップテンポなダンスミュージックがほかのスタイルやジャンルと比べて人気だ。そのため、同アプリの終焉はバラードを得意とするシンガーやギタリストにとっては朗報かもしれない。

Translated by Shoko Natori

Tag:

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE