TOSHI-LOWとILL-BOSSTINOが語る、レベルミュージックの本質と音楽の可能性

「今の問題は、善と悪の判定とかじゃない」(BOSS)

-まさにそこを伺いたくて。BOSSさんはBRAHMANを遊びに誘う感覚だったと言われましたし、TOSHI-LOWさんも半ば反射的に一緒にやることを決めたと。でもそれだけじゃなくて、コロナによって人間同士の潰し合いや日本の政治の腐り方が改めて露わになった今、パンクやヒップホップをはじめとするレベルミュージックの舞台がこれだけ整っている時代はないと思うんですね。そういう意味で何か考えることはありましたか。

TOSHI-LOW:もちろん、俺らのやってる音楽の名の下にっていうことは考えてたよ。これまで海外に行くと、「日本でパンク? 平和な国なのに」って笑ってくる奴もいたけど、今はもう、どこが平和な国なんだよっていう状況になってるじゃん。ってことは、自分達の音楽の出番なのは間違いない。ただ、歌詞の内容だけで言ったら、俺個人は政治的な言及をするよりも情景を膨らませて書くタイプでさ。政治がクソだってことや世の中が狂ってるってことを表現すべき時ではあるけど、そのための直接的な武器が俺にはないなって思ってたの。でもBOSSのリリックは、社会のある現象を真っ直ぐに表現してくれるものだから。2020年の日本、東京、政治、人間--それらの本性がより一層克明に見えた今だからこそ、BOSSとやれば、震災以降や原発、政治に対して歌った」ラストダンス」よりも具体的な歌になる予感があったんだよね。

BOSS:なんなら、リリックを書いた時から今に至るまで、社会の状況はさらに悪化してるくらいだよね。だから歌と社会のズレも起こらなかったし、思ったこと・書いたことそのままでいけた実感がある2曲だね。

-ではまず1曲目の「CLUSTER BLASTER」から伺っていきます。“ここは合衆国保護領 ようこそ 地獄行き決定だぜ お前等 税金泥棒”“そこまでされても怒らない私達”“こりゃマジモンのディストピアみたい じゃね? とっくの昔から緊急事態”というラインで日本のお上に牙を剥き、コロナ云々で新しい問題が生まれたわけではなく見て見ぬフリしてきただけだ、ということを一気に告発していくところから始まる曲です。

BOSS:THA BLUE HERBで今年に出した『2020』を経て、攻撃的な言葉遣いはより踏み込んで書いてるね。これはBRAHMANのサウンドに載せるっていうイメージだったからこそ書けたリリックだとも思う。ただその一方、ただの悪口にはしたくないと思っていてさ。俺が善だ、政治が悪だって言うつもりはなくて、そこからそんな俺も内包している危うさにまで言葉は到達していく。だってそうじゃん。今の問題は、善と悪の判定とかじゃないでしょ

-そうですね。むしろ善悪という極端な区分けが新たな分断・争いを生んでいくわけで。

BOSS:そう。だから、攻撃的で追い詰めるだけの救いのない表現だと、むしろ本質からズレて、誰か一方の陣営を利するものになってしまう。でも今TOSHI-LOWが言ったように、俺の言葉に続く彼の言葉が俺とは違う自己へと向かおうとするものだからこそ、ただの攻撃ではない歌にできたんだと思う。

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