「音楽業界は現代の奴隷船」カニエ・ウェストの公開批判が無茶苦茶ではない3つの理由

2005年、ロサンゼルスの収録スタジオで『レイト・レジストレーション』をレコーディング中のカニエ・ウェスト(Photo by J. Emilio Flores/Corbis/Getty Images)

カニエ・ウェストが「音楽業界とNBAは現代の奴隷船。俺は現代のモーセ」とツイートしたのが9月15日のこと。彼はレコード会社への批判や原盤権の所有などについてTwitterで連日投稿。さらにグラミー賞のトロフィーに放尿する動画をアップし、レーベルとの契約書を公開するなどして波紋を呼んでいる。大統領選出馬でも物議を醸しているカニエだが、今回の戦いは彼にとって吉と出るかもしれない。3人のスターによる前例を振り返りながら、その理由を解説する。

●【動画を見る】カニエ・ウェスト、グラミー賞トロフィーに向けて放尿


18年前、カニエ・ウェストは本人が言うところの「世界で一番イケてるラップレーベル」ロッカフェラと契約を結び、たいそうご満悦だった。

カニエはこの時点ですでに超人気プロデューサーだったが、ヒップホップの重鎮はフロントマンとしての才能に疑問を抱いていた。「ラッパーとしてはまるで評判が良くなかった」。2002年、Complex誌とのインタビューでカニエ本人もこう語っている。「あいつが本当にラップできるなら、さっさとDef Jamと契約してるか、さもなくばロッカフェラに所属してるはずだ」と、キャピトル・レコードの重役が言うのを耳にしたこともあるそうだ。ロッカフェラとの契約で、カニエはアンチな連中を打ち負かした。彼はまた、2004年のデビューアルバム『ザ・カレッジ・ドロップアウト』を含む初期6枚のソロアルバムの原盤権も手放した。

先頃、カニエは自らの記念すべきレコード契約をTwitterでさんざんこき下ろし、複数の契約書のスクリーンショットを投稿した。その中のひとつ、2005年に改訂されたロッカフェラとの契約書には、カニエの最初の何枚かのアルバムは「全世界において、また半永久的に……完全に(ロッカフェラの)所有物である」と記されている。彼はユニバーサル・ミュージック・グループ――2004年にロッカフェラを吸収合併し、カニエの最初の6枚のアルバムをリリースした――に批判の矛先を向け、「まずは自分の子供のために原盤権を獲得し、すべてのアーティスト契約が改訂されるまで、あらゆる法的手段を講じて訴えていくつもりだ」と述べた。



今や億万長者となり、自分がレコード会社を必要とするよりもレーベル側が自分を必要とする立場となったカニエだが、当時の契約内容は彼にとってもはや都合がよくない。

カニエの業界に対する激しい反発に驚いた方は、きっと業界の動向をご存知ないに違いない。彼は昨年ロッカフェラとユニバーサル、音楽出版会社EMIを相手に訴訟を起こした。EMIとの訴訟はその後和解が成立したが、彼は新設の会社Please Gimme My Publishing Incとともに原告側に立った。そして今度は同じように、録音楽曲の著作権、いわゆる原盤権を求めてユニバーサルに戦いを挑んでいるのだ。

Twitterに投稿されたカニエの最後通牒が、アーティスト・コミュニティから広く同情を買うことはあるまい。ひとつには、カニエが公表した契約書によれば、ユニバーサルは彼の6枚目のスタジオアルバム『イーザス』(2013年)の前払い金として800万ドル(約8億4500万円)、さらにサンプリング・クリアランス料とアルバム制作費として追加で400万ドルを支払っていたからだ。ユニバーサルは『The Life of Pablo』(2016年)の際にも、製作費/サンプリング・クリアランス費として300万ドルを事前に払っている。どんな大人気スターでも、所属レーベルからそんな金を渡されることはまずない。

だが、少なくとも本人がいう原盤権の獲得という目的の一部については、カニエも楽観視していいだろう。以下、その3つの理由を見ていこう。それぞれ3人の別のスーパースターが絡んでいる。

Translated by Akiko Kato

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