「音楽業界は現代の奴隷船」カニエ・ウェストの公開批判が無茶苦茶ではない3つの理由

1. レバレッジ(例:マイケル・ジャクソン)

カニエのツイート攻撃の中でとくに驚きだったことのひとつは、「俺がいくらでも金を積めると向こうも知っているから」ユニバーサル・ミュージック・グループ(UMG)は彼のマスター音源の売値を提示しないのだ、とする彼の意見だ。今年末までに、全世界の音楽ストリーミング購読者はおよそ4億6000万人に達するだろう、と本人も主張している――10年後には20億人にまで膨れ上がるだろう。今回の件には、こうした情報が深くかかわっている。

世界中で雪だるま式に増える音楽ストリーミング購読者数の「生涯価値」は、人気アーティストの作品の金銭的価値に直接作用する――ひいては、アーティストが所属するレコード会社の企業価値にも直接影響を及ぼす。こうした理由から、ユニバーサルがカニエのカタログに売値をつけたがらない可能性は高い。一歩間違えれば、数年先には巨額の金を失うかもしれないのだから。そうしたプレッシャーに加え、親会社のVivendiは2023年までにUMGの新規株式公開を行い、UMGを手放そうと計画している。ユニバーサルが抱えるスーパースターの作品数が多ければ多いほど、同社の企業価値も上がるというわけだ。

となると、カニエは交渉の際に独自のレバレッジを考える必要がある。原盤権を取り戻すために、金銭以外に何を差し出せるか? ユニバーサルにとって、カニエが表立って同社を去る――とりわけライバル会社に移籍することだけは絶対に避けたいだろう。だがそうした可能性がユニバーサルにさらなる痛手をもたらすのは、それはカニエがこの先もヒットを飛ばし続ければの話だ。今現在、カニエはゴスペル音楽の製作に傾倒しているが、もっとも最近リリースされた宗教色の薄いアルバム(2018年の『ye』)は商業的にはいま一つだった。

とはいえ、気分が乗ればカニエもいまだヒットを生み出す力がある。リル・パンプとの子供じみた「I Love it」(2018年)は、性的な方向に走りすぎた現代のヒット曲をあえてパロディしたのか?と首をかしげたくなるほど奇妙な曲だった(「俺はセックス病/すぐヤりたい」……いやはや)。にもかかわらずこの曲も大ヒット、複数の国でチャートNo.1を獲得し、Spotifyでは今日まで5億回以上再生されている。もしカニエがこの先もまだやれるとユニバーサルに証明できれば、きっとレーベル側も原盤権の返還に向けておおよその時間軸を話し合う姿勢は見せるだろう。



マイケル・ジャクソンの場合がまさにそうだった。1982年、音楽史に名を遺したアルバム『スリラー』のリリースを受け、長年彼の弁護士を務めたジョン・ブランカ氏は彼のソロ時代の原盤権をソニーミュージックから勝ち取った。今現在、ジャクソンのソロ時代の名作(『オフ・ザ・ウォール』『スリラー』『バッド』等)のマスター音源はすべて彼の遺産管理団体MJJ Productionsが所有している――ただし、全世界のディストリビュートはソニーが行っている。

Translated by Akiko Kato

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