「音楽業界は現代の奴隷船」カニエ・ウェストの公開批判が無茶苦茶ではない3つの理由

3.カニエが望むレコード契約は、すでに存在している(例:テイラー・スウィフト)

カニエの新たな使命は、カニエ本人だけのものでないことはお分かりだろう。9月20日、カニエはこのようなツイートを投稿した。「すべてのアーティストが団結すべき時だ……俺はマスター音源を手に入れるだろう、音楽業界で一番力のある弁護士もいるし、金もある。だが全アーティストが自由を手にし、公平に扱われなくてはならない」

これに加え、カニエはレコード会社や音楽出版会社との契約書のひな型として、新たな「ガイドライン」をツイートし、業界全体で定着させたいと述べた。そのガイドラインとは、(1)アーティストが各種著作権を所有し、レコード会社や音楽出版社に短期で「リース」する。(2)収益の取り分は8:2とし、アーティストが80%(あるいはそれ以上)を手にする、という内容だ。

おそらくカニエはすでに後期の作品の原盤権を所有していると思われるが、それを抜きにしてもこの2本柱の「ガイドライン」は、同じスーパースターのテイラー・スウィフトが大手レコード会社と結んだ契約と非常に似通っている。2018年末、スウィフトはユニバーサルおよびレパブリック・レコードと「今後のマスター音源はすべて自分が所有する」という新たな契約を結んだことを発表した。ご存じの通り、『ラヴァー』以前のマスター音源はスクーター・ブラウン氏が握っている。10年前、ビデオミュージック・アウォードでの悪名高き因縁にもかかわらず、カニエはスウィフトに、昔のマスター音源を取り返せるよう手を貸そうと約束しているのだ。

カニエの「ガイドライン」のもうひとつの提案は、音楽業界でも真剣に検討されるべきだ――レコード会社がSpotifyの株を所有している場合、株でもうけた金が個々のアーティストに分配され、ロイヤルティに盛り込まれるという考えだ。

ユニバーサルと契約しているアーティストは、UMGがSpotify株を売却する日を待ちわびている。カニエの情報源によれば、その価値は現在20億ドル(約2100億円)以上にのぼるそうだ。ひとたびユニバーサルがSpotify株を手放した場合、会社に入る金の分け前が所属アーティストの銀行口座に確実に振り込まれることになっている。それはなぜか?

テイラー・スウィフトが手を回したおかげだ


※ティム・インガムはMusic Business Worldwide誌の創設者兼発行人。2015年以来、世界の音楽業界の最新ニュースやデータ分析、雇用情報を発信している。ローリングストーン誌で毎週コラムを連載中。

Translated by Akiko Kato

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