セックス・ピストルズ『勝手にしやがれ!!』 メンバーによる40年後の全曲解説

セックス・ピストルズのジョニー・ロットンとグレン・マトロック(Photo by Ray Stevenson/REX/Shutterstock)

パンク史に深々と刻まれた1977年の金字塔、セックス・ピストルズ『勝手にしやがれ!!』(原題:Never Mind the Bollocks)。ジョニー・ロットンとグレン・マトロックが収録曲にまつわるエピソードと背景を語った。(本記事は2017年初出)。


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「『勝手にしやがれ!!』は非の打ち所がないレコードだけど、レコーディングしてる時はそんな風には思ってなかった」。1977年発表の歴史的名盤について、ジョニー・ロットンはそう話す。彼曰く「片耳が聞こえなくて、もう片方の耳は音感ゼロだった」というプロデューサーが仕切ったレコーディングにおいて、バンドは極めて限られた時間内にセッションを終えなくてはいけなかったという。

「隣のスタジオではクイーンがアルバム(『世界に捧ぐ』)のレコーディングをやってて、ブライアン・メイは俺にバッキングヴォーカルをやらないかって言ってきた」。ロットンはそう話す。

「どの曲だったかは覚えてないけど、あの『ガリレオ〜』ってやつじゃないことは確かだ。一応、中に入れてもらったんだけど、そこでフレディ(・マーキュリー)がヴォーカルラインをぶつ切りで録ってるのを見て驚いたよ。時には一単語だけ録ったりしてて、後で全部編集するつもりらしかった。こっちなんて何もかも一発録りで、やり直せるとしても1回きりだったのにさ。でも俺は悟ったんだよ。ルールや条件をいろいろと押し付けられるけど、音楽が優れていればそんなのはどうでもいいんだってことをね」

結果的にセックス・ピストルズは、混沌としていたパンクシーンにおける決定打を生み出した。40分足らずのそのレコードはロックンロールのフラストレーションに満ち、周囲のあらゆるものに唾を吐きかけ、とりわけ自分たちの母国に対して敵意を剥き出しにした。1977年10月28日に『勝手にしやがれ!!』がリリースされると、バンドは社会的脅威とみなされるほどの混乱を世にもたらした。同作からのシングルはイギリスのナショナルチャートから排除され、アルバムのカバーを展示したレコード店の店長がわいせつ物頒布の罪で逮捕され、イングランド全土で出禁扱いを受けていたバンドはS.P.O.T.S.(Sex Pistols on Tour Secretlyの略)という偽名でツアーを回らなくてはいけなかった。言い換えれば、アルバムは大きな反響を呼んだということだ。UKチャートの頂点に立った同作は同国でダブルプラチナムに認定され、ローリングストーン誌は彼らを「ストーンズとザ・フー以来、最も扇動的なロックバンド」と形容した。結果的に同作は、アメリカでプラチナムを記録した数少ない初期パンクのレコードのひとつとなった。

あれから40年が経った現在でも、同作の毒気は少しも薄れていない。大西洋の両側で生まれた他のバンドがパンクの勢いを確固たるものにしていくなか、ロットンの切れ味抜群のヴォーカルとスティーヴ・ジョーンズのたたみかけるようなギターリフ、ポール・クックの響きわたるシンバル、そしてバンドの結成メンバーであるグレン・マトロック(1977年に脱退し、シド・ヴィシャスが後任として加入)によるベースプレイのコンビネーションが生み出した「アナーキー・イン・ザ・U.K.」や「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」は、英国において社会現象にまでなった。

同作の発表40周年記念ボックスセットは、このアルバムのレガシーを余すことなく伝えている。同コレクションにはオリジナルアルバムの他、レアトラック、ヨーロッパでのライブ音源、48ページに及ぶブックレット、そしてS.P.O.T.S.ツアー時のライブ映像に加え、女王の生誕50年記念祭の最中に行われた悪名高いテムズ川でのボートパーティ(「ベロベロに酔ってて、あれが何曜日だったかも思い出せない」。ロットンはそのギグについてそう語っている)の様子を収録したDVDが含まれる。同コレクションは2012年にも数量限定で発売されたが、ほどなくして廃盤扱いとなっていた。メンバーの誰1人としてバンドの再結成や新作のレコーディングに関心を示していないため、本ボックスセットはセックス・ピストルズの最後にして決定的なステートメントとなる可能性がある。

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最近のロットンはというと、本名であるジョン・ライドン名義でピストルズ解散後に結成したパブリック・イメージ・リミテッドの活動に精を出している。一方ジョーンズはラジオ番組『Jonesy’s Jukebox』のホストを務め、クックは新作『What in the World』の発売を控えているザ・プロフェッショナルズのメンバーとして活動している。ソロアーティストとしてツアーも精力的に行っているマトロックは、ストレイ・キャッツのスリム・ジム・ファントムと共にレコーディングした新作『Cloud Cuckoo Land』を2018年初頭にリリースする予定だ(シド・ヴィシャスは1978年にドラッグのオーバードーズで逝去している)。『勝手にしやがれ!!』の発表40周年に際し、ロットンとマトロックはローリングストーン誌の取材に応じ、ロック史上屈指の毒気に満ちたアルバムの全曲について語ってくれた。

※以下、曲順はUSオリジナル盤に準規

Translated by Masaaki Yoshida

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