田中宗一郎が語る、オンラインカルチャーが駆動したポップ音楽の20年史と、パンデミック以降の音楽文化の可能性

既存のゲームの裂け目から「音楽の未来」は立ち上がるのか?

それにしても、ここ最近、20世紀のサイエンスフィクションが描き出したディストピア像がこれほど身近に感じられることもなくないですか? YouTubeにしてもSpotifyにしても膨大なコンテンツの宝庫であると同時に、コンテンツの墓場でもあるわけですよね。ミリオン再生されるコンテンツのすぐ側に、誰も顧みないコンテンツが無数に横たわっている。それって、ジェントリフィケーションが進んで、富裕層が暮らす地域のすぐ隣に貧困地区があるインナーシティにそっくりですよね? オンラインもまた格差社会なんですよ。「遂に、俺たち未来に来ちゃったな!」みたいな(笑)。

70年にザ・フーが作ろうとして、結局は堕胎した『ライフハウス』っていうコンセプトアルバム――その一部は彼らの最高傑作の一つとも言われている『フーズ・ネクスト』に収録されています――があって、インターネットの誕生を予見した作品とも言われてるんですね。しかも、大気汚染が進んで、新たに開発された科学スーツを装着しないと呼吸も出来ない未来のディストピアが舞台で、ただそのスーツは富裕層しか手に入れることが出来ない――つまり、まるでパンデミック以降の世界みたいな設定なんですよ。そこでは音楽という存在さえすっかり忘れ去られているんだけど、ボビーという名前のDJが太古の世界の音楽を発見して、政府や富裕層に隠れた場所で違法レイヴを始めるっていう物語なんですね(笑)。



だから、ここ最近も渋谷に出る度に、オリンピックのために再開発された渋谷が数年の内にすっかり荒廃していく姿を想像したりもしてるんです。「テナントが入らなくなったビルがウェアハウス状態になったら、俺もスクワッターになって、そこで違法レイヴ始めてみようかな?」とか、そんな想像をしてみたり(笑)。

つまり、僕が興味のある「音楽の未来」はそちらなんですよ。産業の裂け目から生まれた新しい場所やそこから生まれる新たな文化、新たな音楽スタイルの誕生にどこか期待しているところがある。まあ、その時、自分が生活出来てるかどうかはわかんないんですけど(笑)。

それと、8月第一週にボン・イヴェールがリリースした「AUATC」って最高じゃないですか? 曲もリリックも。あの曲を聴いた時に「ポスト資本主義リアリズム・アンセム」って言葉を思いついて、それ以来すっかりその言葉とアイデアに取り憑かれちゃってるんです(笑)。

Bon Iver - AUATC - Official Video



共著者として今年年明けに上梓した『2010s』という本の中でも、Spotifyとライブ・ネーションの存在を例に挙げて、2010年代は民主化と寡占化、その両方が飛躍的に進んだ時代だって話をしたんですけど、もうそういうかつてのゲームの規則にはすっかり飽きちゃったんです。だから、おそらく来年になっても収束しないだろうパンデミックを境にして、その裂け目から世界中で新たな音楽文化が生まれてくるんじゃないか?――僕が夢想してる「音楽の未来」はそんなところですかね(笑)。

Edited by The Sign Magazine

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