ジョン・ボン・ジョヴィが語る、2020年のアメリカと白人であることの葛藤

黒人コミュニティに対する自分なりの謝罪

―『2020』がすっかり完成したところで、アルバムを手直ししたいと思わせる2つの重要事件が起きました。COVID-19パンデミックと、人種間の不平等に対する全米抗議活動です。

ジョン:作業を終えて、あとは待つだけだった。レコーディングはほとんどナッシュビルで収録して、『Bon Jovi 2020』っていうタイトルを思いついた。あのタイトルにはちょっとした狙いがあってね。大統領選挙の年だろう。バンパーステッカーにしたらいけるんじゃないか、Tシャツも売れるだろう、と思ったんだ。でもレコーディング作業が進むにつれて、他と一線を画するにはもっと時事的な曲じゃないと、と気づいたのさ。

―「ドゥ・ホワット・ユー・キャン」(カントリーバージョンでシングルカットもされている)と「アメリカン・レコニング」の2曲を追加したのはなぜですか?

ジョン:年が明けて、俺たちはアルバムリリースとツアーの準備に取りかかっていた。そこでCOVID-19が深刻化した。アルバムを延期するのは当然だったが、それだけじゃなく、自分自身も自然と世の中のことを考えるようになった……COVID-19が発生して、時事的な曲を書こうと思っていた時にCOVID-19が発生したなら、じっくり腰を据えてそういう曲を書かないわけにはいかないだろ? さらにそこへ、ジョージ・フロイドの事件が起きた。世界はストップして、みんな自宅にこもって仕事関係のことは何もできなくなった。個人的にもすこしスピードダウンして、新聞を読んだり、ニュースを見たり、気分的にも身体的にも、精神的にも自分をいたわった。曲を書かずにはいられなくなって、この感情を言葉で表現してみたくなった。それで書いたのが「アメリカン・レコニング」だよ。



―とても重々しい曲ですよね。“息ができない”とか“いつから判事と陪審員は警察バッヂと膝になったのか”というような歌詞も出てきます。白人として、どういうアプローチで人種間の不平等をとらえたのでしょう?

ジョン:(しばし無言で)世界がストップして、みんながテレビを見たり、期待を込めて新聞を読んだり、今起きている出来事について意見をまとめていた時に、突然1人のアフリカ系アメリカ人の死を目の当たりにした。世界がストップしてしまったからか? 音声付きの画像があまりにも鮮明だったからか? 理由はどうあれ、世間の胸に刺さった。もちろん俺の胸にも。彼の友人がTVに出て、朝の番組の司会者に向かって「息を引き取る前に、彼は母親に呼びかけていました」と言うのを見て、目頭が熱くなった。俺にとって、この時の気持ちを表現する唯一の方法は妻と話し合うこと、そしてじっくり腰を据えて曲を書くことだったんだ。

この曲はかなり苦労したよ。いつものように(妻に)相談したら、「メロディはすごくいいけど、コーラスの部分はいまいち」だと言われた。それであらためて作り直した。そのあと共同プロデューサー/ギタリストのジョン・シャンクスに曲を送る作業に入った。彼はしばらく返事を保留して、かなり厳しいことを言ってきた。そしたら今度はまた(ドラマーのティコ・トーレスから)厳しいことを言われたよ。

―具体的になんと言われたんです?

ジョン:ティコはジョンと同じことを言った。「なんか落ち着かないな。歌詞をひとつひとつ説明してくれないか」ってね。2人に「どこが問題なんだい?」と聞いたら、「『息ができない』っていうフレーズがしっくりこない」って言われた……それでバンドのみんなで話し合って、「アメリカン・レコニング」というタイトルのほうが格段にいいという話になって、レコーディングし直した。それを家に持ち帰って、アフリカ系アメリカ人も含め、貴重な意見をくれそうなあらゆる立場の人々に聞いてもらった。細かいところまで話し合ったよ。

あの曲を書いたのは、コミュニティに対する自分なりの謝罪だった。周りと同じように、自分もあらためて学んでいるよ、と伝えたかった。俺が白人の象徴(poster boy)じゃないとしたら、他に誰がいる? 金持ちの白人成人男性。たまたま警察に車を停められても、おそらくパトカーでスタジアムまでお送りしましょう、と言われるような人間だ。わかるだろ? 黒人の立場で、1マイルも歩かされる経験は俺には到底わかりっこない。俺が知っているアフリカ系アメリカ人はソウル・キッチンで会う人々か、レコード会社の重役、スポーツ選手、あるいは金持ちだけ。もし(この曲をめぐって)キャンセルカルチャーが起きるなら、俺は喜んでキャリアを棒に振るつもりだった。この作品には誇りを持っていたし、(フロイド)事件は本当にすまないと思った。あんな事態になって申し訳ないと思ったんだ。

Translated by Akiko Kato

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