レディオヘッド『キッドA』20周年 絶望を描いた問題作が今の時代にも響く理由

ファイル共有とオーディエンスに託した信頼

『キッドA』は、ファンがすでにNapsterで共有されたライブバージョンを通じて楽曲を知っていた注目作の最初の例だ。だから私たちは「ナイヴズ・アウト」や「アイ・マイト・ビー・ロング」、「ピラミッド・ソング」(当時は「Egyptian Song」として知られていた)を収録しなかったことに当時驚かされたものだ。「ダラー・アンド・センツ」も「ユー・アンド・フーズ・アーミー?」もなし? レディオヘッドは新たに到来したファイル共有の時代にも動じなかった――歓迎さえしたのだ。トムが当時の秋、ローリングストーン誌のデヴィッド・フリッケに語ったように。「皮肉なのは、ジャーナリストたちがレビューのためのサンプルを手に入れられなかったのに、誰でも新曲のライブバージョンをNapster経由でダウンロードできたこと。あれは素晴らしいと思った」



mp3のライブ音源で期待はうなぎのぼりとなり、レディオヘッドもステージ上で新曲を試しに演奏した。しかし『キッドA』は、より直接的でアグレッシブな曲を収録しなかったことでみんなを混乱させた。まるで、頑固にもベストな楽曲を次の機会のためにとっておいたかのように思えた。『アムニージアック』が2001年の夏にリリースされると、それは『キッドA』を補うもののようだった――同じアルバムの双子の片割れのように。当初は『アムニージアック』のほうを好むファンもいた――もっとハードにロックしていて、ジョニー・グリーンウッドやエド・オブライエンのギターもあったからだ。しかし『キッドA』はその弟の上にそびえ立つほどになり、いまや『アムニージアック』のほうがいささか過小評価されているほどだ。同作は「歴代最高の500枚」のリストに入るだけの得票がなかった(『OKコンピューター』も『ザ・ベンズ』も『イン・レインボウズ』も入っているのに)。しかし詩的な解釈をすれば、『キッドA』のすぐ上位にあるケンドリック・ラマーの『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』では、「ピラミッド・ソング」がサンプリングされている

『キッドA』はおそらく歴史上もっとも有名な、キャリアの危うい転換点の一つだろう。何より奇妙なのは、それがこれほどの人気を博したということだ。ローリング・ストーンズ『メインストリートのならず者』の例があるように、人々は「誤解された傑作」を伝説化するのが好きだ――世界でもっとも偉大なロックンロールバンドが道を外れていく、というような。しかし『ならず者』も『キッドA』も、すぐさま商業的成功を収めた。それぞれ1年後にリリースされた両バンドの次作も同様に売れたことから、購入した客がこれらの作品を気に入っていたかのほどがわかる。『アムニージアック』は初週、『キッドA』よりも多く売り上げた。言葉を変えれば、『キッドA』に20ドル支払ったファンたちは落胆してなかったし、「クリープ」のような小綺麗なポップチューンに戻ってほしいなどとは考えなかったということだ。レディオヘッドがロックのオーディエンスに託した信頼は、完全に正しかったことがわかったのだ。

Translated by imdkm

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE