ブルース・スプリングスティーンが語る音楽の力と米社会、亡き友との絆が遺した影響

1978年、スプリングスティーン(右)と故クラレンス・クレモンズ。「俺たちは親しかった、それだけさ」。彼はそう話す。(Photo by Rick Diamond/Getty Images)

友の死、夢の中で会った故クラレンス・クレモンズ、そして最高のバンド(Eストリート・バンド)と作り上げた会心のニューアルバム『レター・トゥ・ユー』について、ロック界のボスことブルース・スプリングスティーンが明かす。米ローリングストーン誌 No.1344のカバーストーリーを完全翻訳。

自宅の外の砂利を敷いた道に立ち、ブルース・スプリングスティーンは目を細めて空を見上げている。2020年8月上旬の今朝、彼が頻繁にメタファーとして用いる雷雨がニュージャージー州のモンマスを襲った。アズベリー・パークやフリーホールドではいたるところが浸水し、ここコルツ・ネックの馬牧場の足場はぬかるんでいた。嵐が通り過ぎた午後、スプリングスティーンが所有する敷地の上空では、雲の切れ間から太陽の光が差し込んでいた。「丸一日潰れなかっただけマシだと思わなきゃな」。彼は心底安堵した様子でそう話す。ここでの半隔離生活が長引けば長引くほど、天気への関心が高まっていくという。「他に気にすることなんてないからな」

シルバーと黒の混じった髪は短く切り揃えられ、薄手の白いアンダーシャツに覆われた胸部は今なお逞しい。肩の部分に小さな穴が空いているそのカットソーは、『闇に吠える街』のカバー写真で着ていたものを思わせる。足元はレザーのサンダルで、(驚いたことに)靴下は履いていない。ジーンズ姿であることは言うまでもなく、カーペンターパンツの色はライトブルーだ。パンデミックが宣言されてから6カ月が経った現在、かのブルース・スプリングスティーンさえも今なおリモートワークを強いられている。

いつものことだが、彼のそばにいると体が少し強張るのを感じる。まるでラシュモア山の顔のひとつがすぐ隣にあるような、言いようのない緊張感を覚えるのだ。ましてや何カ月も他人と面と向かって話していなかったとなると、その状況はどこか非現実的にさえ感じられる。筆者もこの周辺で幼少期を過ごしたこともあり、屋根付きのポーチに向かって歩きながら、我々は他愛のないローカルトークを交わした。筆者は彼の自伝にも登場したアイスクリーム屋のCarvelが大好きだったのだが、それがダンキンドーナツに変わってしまったことを彼も嘆いていた。我々は白い大理石のテーブルを挟み、2メートルの間隔を空けて籐椅子に腰掛けた。目の前の芝地には木が立ち並び、今朝の嵐に耐えた葉をゆっくりと揺らしている。走るために生まれてきた男にとって、今の状況が理想的でないことは確かだが、ここは決して最悪の環境というわけではない。


Photo by Danny Clinch for Rolling Stone

近況について訊ねると、スプリングスティーンは椅子にもたれかかりながらこう言った。「何とか踏ん張ってるよ、皆と同じようにね。何かと予定が立てにくくて、次はいつステージに立てるのかもわからないけどさ」。彼は何気ない調子でそう話したが、その後深刻そうな表情を浮かべて「日々のライブで生計を立ててるミュージシャンや、裏方のクルーたちのことが心配だ」と語っていた。「心配事もあるけど、隔離生活自体はそれほど苦じゃないよ。少なくともしばらくは、先の見えない今みたいな状況が続くわけだし。とにかく、俺は何とか持ちこたえてるよ」

鬱症状との格闘を続けていることを明かしている彼は、現在も薬を処方してもらっているという。「最近は気分がいいんだ。薬のおかげさ」。彼はそう語っていた。

Translated by Masaaki Yoshida

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