矢沢永吉が語るバラードの魅力 90年代、秋元康から打ち明けられた「本音」とは?

10年かけて熟成された「棕櫚の影に」の旋律

ー80年代からは、「棕櫚の影に」についてお伺いします。この曲はファンにも人気の高い名曲だと思いますし、ライブでも度々取り上げられていてライブテイクもいくつか発表されているなど、矢沢さんご自身の思い入れも感じます。こういうミディアムの16ビートノリでダンサブルなバラードは矢沢さんの十八番中の十八番ではないかと思うのですが、この曲への思いをぜひ聞かせてください。

矢沢:これはね、本当に良いメロディですよ。最近はあまりそういうことはないけど、僕が若い頃、もう寝ても覚めてもメロディがどんどん湧いていたんです。目の前にお酒を置いて、飲みながらギターを持っていたら、1時間のうちに7、8曲書くぐらい当時はメロディが湧きまくっていた頃で。入口から出口まで完成する曲はそんなにはないんですけど、4小節・8小節単位でも、「このメロディ、カッコイイ」というメロディがたくさん沸いてきましたから、それをその都度カセットテープに入れるということをやってたんです。僕専用のカセットレコーダーにいつもテープを入れていて、メロディが浮かんだらすぐにRECボタンを押して、4小節ぐらいのもの、8小節ぐらいのものをストックしてました。そういう「矢沢の宝物」みたいなカセットテープが家にいくつもあります。それから8年か10年か、長い月日が経ったあるとき、「あ~、こういうテープあったよな、どれどれ?」って聴き直したことがあって。そのときに聴いたのが「棕櫚の影に」。

ーその時点では、まだ曲の一部しかなかったわけですよね。

矢沢:そうです。もちろん、「棕櫚の影に」というタイトルもないですよ? 「タ~ララ~タララララ~」(「棕櫚の影に」の冒頭のメロディを歌いながら)っていう、4小節ぐらい聴いてみたら、それだけで「めちゃくちゃ良いじゃん!」って思ったんです。僕ね、自分が書いた曲なのに、「これ、俺が書いたの?」ってぶったまげた。カセットテープの日付を見たら、10年ぐらい前のカセットテープだったんだけど、「このフレーズ良いなあ」っていうことで、そこから最後まで一気に作ったのが、後の「棕櫚の影に」になったわけです。

ー10年の時を経て完成したってすごいですね! そんな逸話がこの曲にあったとは驚きです。

矢沢:だから、曲って最初の4小節でも、「これカッコイイな、引っかけられたな」っていうメロディは絶対捨てちゃダメ。録って残しておくんです。録っておけばそのときは完成できなくても、それから2年後でも5年後でも、そこから先を作ればいいんだから。まさにこの「棕櫚の影に」は10年ぐらい前のカセットテープを聴いてそこから先、続きを作った曲ですから。

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