BTS所属事務所、IPOによりメンバーが株式約113億円を保有し億万長者に

コバルトは、ソングライターが自作の著作権を保有することを認めている会社として有名だが、クライアント獲得を目的とした「弊社の(株式の)一部もどうぞ!」的なアプローチは、音楽著作権を購入する企業にも適応される。今年の初め、長年にわたってジャスティン・ビーバーとのコラボレーションを行ってきたソングライターのPoo Bearは、自作カタログをアグレッシブな獲得で知られる英Hipgnosis Songs Fund(訳注:IP投資と楽曲のマネジメントを専門とする企業)に売却した。今年の7月、Poo Bearは、音楽業界の分析を専門とするMusic Business Worldwide(MBW)のインタビューでHipgnosis Songs Fundの創設者であるメルク・メルキュリアディス氏からカタログの著作権の代償として同社の株式を一部提供したいと提案されたと語った。「カタログを売却した後もその一部でいられる——私にとってはこれがすべてでした」とPoo Bearは話す。さらには、次のように続けた。「他社がこのような提案をしたことは、いままでないと思います」。

Poo Bearが言う「他社」とは、知名度にかかわらず、ソングライターやアーティストに株式という報酬を未だに与えていない大手音楽会社を指しているのかもしれない。その原因のひとつは、こうした企業が所有するカタログの膨大さにある。たとえば、ドレイク、テイラー・スウィフト、ビートルズ、クイーンのどのアーティストに株式を付与するか、ユニバーサルミュージック・グループ(以下、ユニバーサル)にいったいどうやって決めろと言うのだ?

しかしながら、ビッグヒットが抱えているアーティストは何もBTSだけではない。それでも、同社は相当な株式を7人のメンバーに付与した。世間を騒がせているBTSの所属事務所の株式保有問題は、音楽業界のパラダイムシフトを促し、それによって人気アーティストとの交渉中はもちろん、再交渉の際も株式の一部を彼らに譲渡せよという圧力が大手音楽会社にかかるようになるのだろうか?

3大レコード会社のユニバーサル、ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、ソニー)、ワーナーは、保有するSpotify株を売却して得た資金の一部を所属アーティストに還元することに同意していた。だが、この期に及んで大手3社は、ビッグヒットの事例にも取り組まなければならない。大手音楽会社が自社の株式を売却し、多額の現金を銀行に預けたらどうなるだろう? この場合、Spotifyが上場したのと同様に、レコード会社が抱える大物アーティストたちには、企業価値を高めたことへの個人的な貢献に対し、大金の分け前を棚ぼた式に手に入れる権利があるのだろうか?

これは、理論上の質問ではない。ユニバーサルの親会社である仏ヴィヴェンディは、今年の初めに中国のテンセントが主導するコンソーシアムにユニバーサルの株式10パーセントを33億ドル(約3500億円)で売却した。それだけでなく、報じられたところによれば、同コンソーシアムは2021年1月にさらに10パーセントを手に入れるつもりだ。ヴィヴェンディは、2023年までにユニバーサルの新規株式公開を行い、同社を「手放そう」と計画している。ワーナーは6月にNASDAQ上場を見事に成し遂げ、初日から企業価値が跳ね上がるのを目の当たりにした。

大手レコード会社は、大金をめぐるこうした大きな動きが生じる前の段階でアーティストに株式を「無償」で付与するなど、ビジネスとしてまったく理にかなっていないと反論するに違いない。会社の株式をアーティストにばら撒くという行為は、由緒ある大手音楽会社ではなく、Hipgnosis、Dirty Hit、エレクトラ、コバルトといったスタートアップ企業が創業直後の数年間に行うものだと主張するだろう。さらに大手レコード会社は、ビッグヒットの今年上半期の収益の87.7パーセントにBTSが貢献した点を指摘し、収益に対してここまで圧倒的な影響力を持つアーティストは、ユニバーサル、ソニー、ワーナーには存在しないと言い張るかもしれない。

しかしながら、ビッグヒットのIPOによってBTSメンバーが億万長者になるのを目の当たりにしたアーティストと彼らの顧問弁護士には、別の言い分があるはず——交渉の場に新たな話題がもたらされることになるだろう。


著者のティム・インガムは、Music Business Worldwideの創業者兼発行人。2015年の創業以来、世界の音楽業界の最新ニュース、データ分析、雇用情報などを提供している。ローリングストーン誌に毎週コラムを連載中。

From Rolling Stone US

Translated by Shoko Natori

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