ブルース・スプリングスティーンの名曲ベスト40選

29位→27位

29位 「ブリリアント・ディスガイズ」/『トンネル・オブ・ラヴ』(1987年)収録



筆者がアルバム『トンネル・オブ・ラヴ』を買ったのは16歳の時だった。大ヒットアルバム『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』に続く本作について、特に批評家をはじめとする多くの人たちは全く期待していなかったと思う。しかし批評家の言うことには、いつでも騙されてきた。スプリングスティーンが離婚した時期のアルバムで、筆者は別れをテーマにしたレコードが好きだ。例えばマーヴィン・ゲイの『ヒア、マイ・ディア』、ビル・ウィザーズの『+’Justments』、それからリチャード&リンダ・トンプソンの『Shoot Out the Lights』などだ。「ブリリアント・ディスガイズ」でスプリングスティーンは、あからさまに夫婦生活の終わりを宣言している。セレブがもてはやされる今の時代にあっても、有名人のほとんどは私生活を必死で隠そうとする。しかし彼は「僕らは精一杯やった。でもだめだった」という感じだった。問題は解決しなかったのだ。音楽からこのような率直さや弱さを感じられることは、めったにない。

2017年、筆者はアポロ・シアター、マディソン・スクエア・ガーデン、フィラデルフィア、ニュージャージーと、2週間かけてスプリングスティーンのコンサートへ出かけた。アポロでスプリングスティーンは、文字通り壁をよじ登った。彼は60歳を超えている! 筆者は彼よりもかなり年下だが、とても真似できない。その後筆者は、彼の作品をより深く研究しはじめた。

スプリングスティーンはトーク番組『レイト・ナイト・ウィズ・ジミー・ファロン』に出演したが、番組で最も魅力的なエピソードのひとつとなった。彼にエゴなど全く感じることはなく、思慮深い人間だった。筆者は、トイレに行くにも12人のボディーガードを引き連れて行くような有名人を見てきた。一方でスプリングスティーンは、私たちの楽屋へノックもせずに入ってきてギターを取り上げ、アルバム『ネブラスカ』について語り始めた。これがスプリングスティーンだ。楽曲「Eストリート・シャッフル」をプレイしながら「俺について来い」と言って、オーディエンスだけでなく、衣装やメイクの担当スタッフからプロデューサーまでスタッフ全員をフロアへ引っ張り出して踊らせた。彼にはサーカスの団長のような才能がある。素晴らしい。Text by Questlove(クエストラヴ)

28位 「ザ・ライジング」/『ザ・ライジング』(2002年)収録



9.11の印象的なシーンの中でスプリングスティーンが最も感銘を受けたのが、消防士のひとりが建物の階段を登って行く姿だった。「煙に覆われた階段を上がっているのは自分かもしれない。あの世へ向かって進み続けているかもしれない」とスプリングスティーンは、2002年に語っている。救助隊員の目線で語られるアンセム的なこの楽曲は、プロデューサーのブレンダン・オブライエンの所有するアトランタのスタジオで、Eストリート・バンドと18年ぶりにレコーディングしたアルバムからの1stシングルだった。「曲に自分自身のイメージを重ね合わせることができる。“ザ・ライジング”からは、自分の崇高さと向き合う人間の姿を感じる」と、シンガーソングライターのメリッサ・エスリッジは言う。

27位 「ハイウェイ・パトロールマン」/『ネブラスカ』(1982年)収録



「安定した時と、時間が止まって全てが暗転する時との微妙な境目だ」と、スプリングスティーンはアルバム『ネブラスカ』の最も暗い楽曲について表現した。「ハイウェイ・パトロールマン」は、その強烈な色彩がどれほど鮮やかになり得るかを表している。「私の名前はジョー・ロバーツ。州の公務員だ」とスプリングスティーンは歌う。曲の冒頭では、警官のジョーが罪を犯した兄弟のフランクを車で追い、カナダとの国境まで追い詰めたものの結局は逃がしてしまう。静かなアコースティックのメロディに、ベトナム戦争や郊外の貧窮した生活が兄弟の物語に織り込まれている。オスカー級のドラマだ。「家族の中の葛藤がある」と、アーケイド・ファイアのウィン・バトラーは言う。「結婚式の古い写真を眺めているようだ」

Translated by Smokva Tokyo

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