「新世代UKジャズ」について絶対知っておくべき8つのポイント

3. UK新世代ジャズの中心地「Tomorrow’s Warriors」

『Blue Note Re:Imagined』に参加している若手ジャズ・ミュージシャン、ヌバイア・ガルシア、シャバカ・ハッチングス、エズラ・コレクティヴらもまた80年代以降の歴史と繋がっている。UKジャズの新しいムーブメントを浮上させるきっかけとなったコンピ『We Out Here』(2018年)でも中心的な役割を担っていたこの3組は、コートニー・パインのバンドでベーシストを務めたギャリー・クロスビーが運営している音楽教育NPO「Tomorrow’s Warriors」の教え子たちであり、師弟関係のような形でイギリスの音楽史の連続性を体現している。


(左上)ヌバイア・ガルシア:1991年生まれのサックス/フルート奏者/作曲家。2020年に名門コンコードと契約し、アルバム『Source』をリリース。ネリヤとマイシャの2組にも在籍。
(左下)シャバカ・ハッチングス:1984年生まれのサックス奏者。サンズ・オブ・ケメット、コメット・イズ・カミング、シャバカ・アンド・ジ・アンセスターズという3つのグループを率いる現代UKジャズの精神的支柱。
(右)エズラ・コレクティヴ:フェミ・コレオソ(Dr)、TJ・コレオソ(Ba)、ジョー・アーモン・ジョーンズ(Key)、ディラン・ジョーンズ(Tp)、ジェームス・モリソン(Sax)からなる5人組。2019年にデビューアルバム『You Can’t Steal My Joy』を発表。





ヌバイア・ガルシア、NPR「Tiny Desk (Home) Concert」でのパフォーマンス映像。ジョー・アーモン・ジョーンズ、ダニエル・カシミール、キャシー・キノシも参加。


Boiler Room Londonに出演したエズラ・コレクティヴのライブ映像

ジャマイカ移民を両親に持つUKカリビアンだったコートニー・パインが、自身と同じような境遇をもつカリブやアフリカからの移民によるバンドを作ることを目的に始めた「ジャズ・ウォリアーズ」の名前を受け継いでいる同NPOは、UKカリビアンやUKアフリカンのジャズミュージシャンが多く育て上げ、今日のシーンに送り出している。トリニダードとガイアナをルーツに持つヌバイア、バルバドスをルーツに持つシャバカ、ナイジェリアをルーツに持つエズラ・コレクティヴのコレオソ兄弟ら、現在のイギリスのジャズシーンをけん引する若手はカリブ/アフリカ系移民の2世・3世たちだ。

また、マイノリティに音楽を演奏する機会を与える目的を持つ同NPOは、黒人を中心とした移民だけでなく、女性へのサポートにも力を入れている。現在ではヌバイアをはじめ、シード・アンサンブルを率いるキャシー・キノシ、ココロコを率いるシーラ・モーリス・グレイなど、Tomorrow’s Warriors出身の黒人女性ミュージシャンが多数活躍しており、(世界的に男性率が非常に高い)ジャズ・シーンの男女比率を飛躍的に改善しつつあることも世界中で話題になっている。


関係者や卒業生の発言も交えた、Tomorrow’s Warriorsの紹介動画

実際に相関図を見てもわかるように、今のUKジャズと呼ばれるシーンの中心にはTomorrow’s Warriorsがあり、その出身者たちがシーンの核になっている。図には書き切れなかったが、スチーム・ダウンやルビー・ラシュトン、トライフォースなどに起用されるドラマーのベンジャミン・アピアーも輩出しており、出身者が参加しているバンドは枚挙に暇がない。もはやTomorrow’s Warriors抜きにはシーンは成り立たないとさえ言えるだろう。

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