「新世代UKジャズ」について絶対知っておくべき8つのポイント

Column 3
UKシーンを育てた交流の場と育成機関

2010年代以降のロンドンにはTomorrow’s Warriorsのほかにも、音楽を学び、ミュージシャンが交流するための「場」がいくつも存在してきた。

演奏家とDJ/プロデューサーが入り混ざるイベントとして2003年に西ロンドンでスタートした「Jazz re:freshed」は、ディーゴ(4ヒーロー)やカイディ・テイタム(バグズ・イン・ジ・アティック)、マーク・ド・クライブ・ロウといった現行シーンにおける先輩格や、ブレイク前夜のテイラー・マクファーリンも参加した2008年のコンピ『Jazz re:freshed vol.1』を境に、レーベルとしての活動も本格化。

今回の相関図にまつわる重要リリースも多く、2016年には『We Out Here』にも参加したトライフィースのアルバム『Triforce 5ive』、マイシャやアシュリー・ヘンリーのEP『Ashley Henry’s 5ive』、2017年にはヌバイアのデビューアルバム『Nubya’s 5ive』とダニエル・カシミールのEP、そして2019年にシード・アンサンブルやサラ・タンディのアルバムに、上述したダニエル・カシミール&テス・ハーストのコラボ作をそれぞれ発表している。



Jazz re:freshedで演奏するテオン・クロス、ヌバイア、モーゼス・ボイド

『Blue Note Re:Imagined』にも参加している「スチーム・ダウン」は、ロンドン南東部のバー「Buster Mantis」で毎週水曜に同名のイベントを主宰しているアーティスト・チーム。セッション企画ではアフロビートのテイストを前面に押し出し、カマシ・ワシントン、ヌバイア・ガルシアなど数多くのアーティストとのコラボレーションを行っている。



さらに、ジャズやファンクを軸に、新たなサウンドを模索するミュージシャンをブッキングするライブ・シリーズ「Church of Sound」、マカヤ・マクレイヴン『Where We Come From (Chicago × London Mixtape)』の舞台にもなった、レコーディングスタジオとライブスペースが併設されているUKジャズの拠点「Total Refreshment Centre」(ライブハウス営業は休止中)など交流の場は枚挙に暇がない。そういったイベントに加えて、ジャイルス・ピーターソンの「Worldwide FM」や、「Balamii」「NTS Radio」といった、インディペンデントなラジオ局もジャズシーンを積極的にサポートしている。


エズラ・コレクティヴ、Church of Soundでのライブ映像、シーラ・モーリス・グレイ、キャシー・キノシなども共演


Total Refreshment Centreで収録されたネリヤのライブ映像


ジャイルス・ピーターソンのBBCラジオ番組内での放映用に録音されたライブ音源『Gilles Peterson Presents: MV4』。ジョー・アーモン・ジョーンズ、オスカー・ジェロームなどが参加。




左からスキニー・ペレンベ、ヤスミン・レイシー

教育機関についても整理しておこう。ジャイルス・ピーターソンが2014年に設立したNPO「Future Bubblers」では、次世代アーティスト育成の一環として、同名のコンピ・シリーズを通じて、彼らの音楽を世界中にアピール。『Blue Note Re:Imagined』に参加している南アフリカ出身マルチ奏者のスキニー・ペレンベ、ジョルジャ・スミスに続くディーヴァとして注目されるヤスミン・レイシーなど注目すべき才能をいくつも発掘してきた。





また、このシーンにはトリニティ・ラバン音楽院で学んだ者も多く、ジャズギターを専攻したトム・ミッシュのほか(中退)、ヌバイア、ジョー・アーモン・ジョーンズとフェミ・コレオソ(エズラ・コレクティヴ)、オスカー・ジェローム、シーラ・モーリス・グレイ、キャシー・キノシ、モーゼス・ボイド、アマネ・スガナミ(マイシャ)などが同学校の卒業生である。

もう一つ、ブリット・スクールも欠かせないだろう。同校は音楽のみならず、演劇やダンスからゲーム、アプリまであらゆる分野を学ぶことができるパフォーミングアート&テクノロジースクール。授業料は無料で(国の財源で賄われている)、アデルやエイミー・ワインハウスを筆頭に、FKAツイッグスやラッパーのオクタヴィアンなど気鋭のアーティストを多く輩出してきた。


アシュリー・ヘンリー(Photo by Max Fairclough)

ジャズシーンではサウスロンドンのピアニスト/コンポーザー、アシュリー・ヘンリーが同校の出身。2019年の1stアルバム『Beautiful Vinyl Hunter』では、キーヨン・ハロルド、マカヤ・マクレイヴン、モーゼス・ボイド、ビンカー・ゴールディングなど英米の気鋭ミュージシャンを迎え、ソランジュ「Cranes in the Sky」のインストカバーも披露している。



さらに相関図にもあるように、同校からはキング・クルールや、彼の同級生であるロイル・カーナーやジェイミー・アイザックの背中を追うように、最新作『Pony』で全米3位/全英5位を記録したレックス・オレンジ・カウンティなど、新しい感性をもつシンガーソングライターが続々と台頭。そのなかでもプーマ・ブルーやコスモ・パイクは、同時代のジャズシーンとも連動するようなサウンドを鳴らしてきた。




ここで注目したいのが、アシッドジャズの時代に、ヤング・ディサイプルズのエンジニアとして活躍したディーマスことディル・ハリス。彼は近年、キング・クルールやプーマ・ブルーの作品に携わりながら、サンズ・オブ・ケメット『Your Queen Is A Reptile』(2018年)や、シャバカ&ジ・アンせスターズ『We Are Sent Here By History』といったシャバカ・ハッチングスの重要作も並行して手がけ、プロデューサー/エンジニアとして再注目されている。この縦横の繋がりもまた、今日のUKシーンを象徴していると言えるだろう。



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