ROTH BART BARONに学ぶ、コロナ時代の新たなバンドカルチャー

「忘れられない体験」を一緒に作り出す

三船:あとクラファンのトピックとしては「バンドのライブをプロデュースできる権利」というのもあって。

若林:というと?

三船:僕らのメンバー編成やライブを行う会場、セットリストなどをその人に全部決めてもらって、その公演を僕たちが実際に開催するんです。実はつい先週(10月17日)にも、去年のクラファンのリターンとして、「キャンプ場の星空の下でロットを見たい」と言ってくれるファンのためにライブをしてきました。大自然のなかで火を囲みながらライブを観たいということで、イベントのタイトルも「The CAMPFIRE」。彼らがセットリストも全部決めて、おふるまいとして焼き芋を焼いてとか、すべて企画してくれました。

小熊:それは最高のシチェーション! 夜の野外でロットの音楽を浴びるのは気持ちよさそうです。


「The CAMPFIRE」のライブ写真(Photo by Tân Gān-líng from "PALACE")

若林:制作にはロット側のスタッフも入るんですか?

三船:そうですね。場所のブッキングとかを手伝ったり、イベントを企画する時のノウハウはどんどん共有します。僕自身、消費というか、クラファンでモノを貰っても、あんまりうれしくなくて、それよりも一生忘れられない体験にお金を出したい。例えば、僕はウィルコが大好きなんですけど、彼らのニューアルバムをプロデュースできるとなったら、多少高くてもサポートしたいと思うじゃないですか。

若林:やりたい! (ウィルコのドラマー)グレン・コッツェに「もっと柔らかく叩いて」とか言ってみたい(笑)

小熊:それは畏れ多すぎ(笑)。もはやそこまで行くと、アーティストとファンがある種イーブンな関係性で一緒にクリエイトしているとも言い換えられそうですよね。「ロットのライブをキャンプ場でやろう!」というのは理解のあるファンならではのアイデアで、ひょっとしたら当事者には到底思いつかない発想かもしれない。そういう意味では、「ファンとのクリエイティブ」の可能性を実践しているというか。

若林:流行りの言葉でいうと、一種のオープンイノベーションでもありそうです。

三船:そうですね。僕たちバンドが7人なのに対し、ファンの人たちは何百人もいる。その人たちが期待しているバンド像っていうのは、お互いが知り得ないまま乖離していることも多いと思うんですよ。そのなかで一般的なのは、アーティスト側が新しいバンド像を見せる、次に何をやるのかというのをファンが(受け身で)期待するという構図なんだと思うんですけど。

小熊:「アーティストとは神聖な存在で、ファンには手が届かない存在だからこそ尊い」みたいな関係というか。

三船:そうそう。でも、それを逆にファンの側から与えてもらうことで、自分たちがどんなふうに見られているのかがわかって、その新しい飛躍に目から鱗みたいなことは多いですね。僕らが一番最初にファンからライブをプロデュースしてもらったのは「プラネタリウムでライブを観たい」という企画で、それはチケットを発売したら即完したんです。そういう発想って、自分たちだけで考えるとベタ過ぎるように思えて、「ナシではないけれど、いつかやればいいか……」みたいになってしまう。そこをいい意味でキックされる経験というか。すごく覚醒する感じがします。


2019年9月に多摩六都科学館 プラネタリウムドームで開催された「The PLANETARIUM」のライブ映像

若林:なるほど。でも逆にそれってポピュリズムって言うとなんですが、ファンが見たい像に自分たちがどんどんアダプトしていっちゃう可能性もあるのかなと思ったりもしますが、どうですか?

三船:あんまりファンが求めるものを提供し続けちゃうと、どんどん血が濃くなるというか。健康的じゃないし、彼らの想像を超えられないものにもなりかねないですよね。やっぱり誰だって、自分の想像が及ばないような表現をする人のチケットを買いたいだろうし。だから、そこがを失われないようにすることには、すごく気を遣ってます。

若林:具体的に言うと?

三船:最後の一番大事なアウトプットのコアは、ちゃんとこちらから提示してあげるっていうことですね。例えば、ファンが提案したセットリストの流れは変えないけど、あえていつもと違う形でプレイしたりすることで、いい意味で期待を裏切ってみせるとか。そうやって彼らのアイデアを超えたコラボレーションを生み出すことで、忘れられない体験を一緒に作り出す。そういう意味では、普段のライブとやってることはあまり変わらないんです。

若林:企画した側の予想を超えていかないといけないと。そのバランスを保つのはなかなか難しそうです。

三船:そうですね。僕らはサイコロを転がしてみて、結果的に上手くいったわけですけど、最初は大失敗する可能性も大いにあったと思います。

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