ROTH BART BARONに学ぶ、コロナ時代の新たなバンドカルチャー

ファンがアルバム・プロデュース

若林:これまでのクラファンで一番大きなサポート額はいくらに設定したんですか?

三船:50万円ですね。「ロットと一緒にアルバムをプロデュースできる」というリターン内容で、前回のクラファンでサポートしてもらい、『極彩色の祝祭』で一緒に関わってもらいました。

若林:すごい。具体的な作業としては何をしてもらうんですか?

三船:まずは「こういうテーマでいこうと思う」というステートメントを僕が書き、それを挨拶代わりに送って構造を理解してもらって。その後、「こういうコンセプトで、こういうアートワークで、こういう曲たちがあります」「こんな感じでレコーディングをしようと思って、今バンドでセッションしてます」みたいなプライベートなインフォメーションを、その人にガンガン送っていくと。そこからやっと自粛要請期間が明けて、6月にレコーディングの最初のセッション日が決まったところで、声をかけて制作現場に来てもらいました。結局、彼女はほとんどのレコーディング現場に最初から最後まで同席していましたね。



若林:普段は仕事されている方?

三船:はい。すごくちゃんとした方です。

若林:すごいなぁ。それで50万円を払って、なぜか労働しているわけじゃないですか。しかも結構ハードな労働ですよね。

小熊:不思議な関係ですけど、でも普通に生きてたら、ロットほどのバンドを自分がプロデュースする機会なんて絶対ないですからね。

若林:たしかに。で、その方は具体的にどんなことをサジェストするんですか?

三船:例えばアルバムのアートワークも、最終的な形になる前の、もっとラフな時点から「こういうプランにしようと思ってるんですけど、何か意見があったら教えてください」って伝えておいて、メールのやり取りで向こうの意図を汲み取りつつ「この間の意見を受けて、こういうアプローチに変えてみたんだけどどうだろう?」みたいな感じでやり取りをしていて。いわゆる共同プロデュースみたいな形ですね。もちろん、実務面ではプロデュース経験の有無も関係してくるので、こちら側もサポートしつつ、彼女が思っていることやアイデアを伝えてもらいました。

若林:そのアイデアは、今回のアルバムでどんなふうに反映されているんですか?

三船:「こういう曲を作ってほしい」というオファーが一曲ありましたね。曲のデモを聞いた時に、よくボーイスカウトとかで歌われる「森のくまさん」の日本語版が浮かんできたから、それをモチーフに何かできないかと聞かれて。

若林:難しいことを言う(笑)。

三船:実は僕、クマが好きで、ヒグマが特に好きなんですよ。そういうところを汲んでもらったんだと思います。そこから僕のほうも、彼女はこの曲に小さな女の子や『美女と野獣』的なイメージが見えるんだなと受け取って、面白いなと思いながらアイデアを転がしていって曲を仕上げました。それによって生まれた「B U R N H O U S E」という曲は、最初に想定していたものと全然違う曲になりましたね。



若林:つまり人のアイデアを素直に受け止めて、自分が作ったものを捨てるみたいな話でもありますよね。ニコ・ミューリーという作曲家について誰かが言ってたんだけど、彼がすごいのは、とにかくアイデアをどんどん出すところだと。「いいのができた!」と持ってきても、相手にイマイチって言われると、すぐに捨てて次の曲を作ってくるんだって。

小熊:すごい割り切り方ですね。自分が作ったものに対する達成感やエゴより、他人の意見が上に来ると。

若林:それは極端な例にしても、人からサジェストされたものが、ある種のきっかけになって、自分が今まで考えたこともなかった扉を開いてくれるみたいことに対してオープンであるのは意外と難しいと思うんだよね。三船さんはそれに対しては、あまり抵抗はない?

三船:僕の場合、ロットの名前を背負っているのは自分一人ですけど、バンドメンバーが7人いて、みんなの意見を聞きながらセッションをして音楽を作っていくところがあって。曲作りもみんなの入り込む余地があるようにしているんです。デモの時点から「絶対にこういうふうに弾け!」みたいな、人間性を殺すようなことはしたくないので。そういう意味で、コラボレーションが好きなタイプだからこそ楽しめているのはあるかも知れないですね。もちろん、受け入れられないアイデアだったら断ると思うので、そこに嘘はないつもりです。

若林:面白い。アイデアって、じーっと考えてたら浮かぶというものでもなくて、何かの拍子にまとまるようなものじゃないですか。三船さんもさっき「転がす」と言ってましたけど、そういう待ちの時間というのは結構ありますよね。そんな時に、なんでも良いからアイデアが入ってくる状態にしておくのは大事なことですよね。今回のコワーキングには、そういう意味でいうと、新しいアイデアが入ってくる一つの契機になる可能性ってことですよね。できあがった曲を聴いて、その女性の方もすごく喜んでたでしょ?

三船:喜んでくれてるといいなーと思ってます。それと今回は、アルバムのライナーノーツもその方に書いていただきました。

若林:めっちゃ労働してる(笑)。

小熊:すごくいい文章でした。

三船:そうなんですよ。真摯にバンドを見てきた人のドキュメンタリーがそこにあって、今回のアルバムがどうやって作られのたか、すごく正直に書かれていました。僕もそれを読んで、「こういう風に見えていたんだな」と思ったし、すごく良かったです。

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