ROTH BART BARONに学ぶ、コロナ時代の新たなバンドカルチャー

ROTH BART BARONの三船雅也、黒鳥社の地下スペース「黒鳥福祉センター」で撮影(Photo by Yuri Manabe)


DIYで理想のサウンドを鳴らすために

若林:でも、やっぱり不思議ですよね。その人は50万円を支払うことで何を買ったことになるんでしょうね。普通の言い方をすれば、「三船さんが50万円である種の体験を売った」ってことになるんでしょうけれど、その説明だといまひとつしっくりこないじゃないですか。

三船:売り買いじゃないんですよね。消費できない何かを交換している感じというか。

若林:それってなんなんですかね?

三船:インディレーベルでクリエイティブなアルバムを作ろうとすると、圧倒的に予算が足りないし、(日本に住む)1億人だけじゃなくて(世界中に住む)70億人のことを考えた音楽を作るというのは、なかなか難しいと思うんです。僕らがやってるようなバンド・ミュージックは特に、アナログなスタジオや職人のノウハウを使わないと表現できないことがたくさんある。そのクオリティを実現させるためには、自分たちの経済圏だと、現状ではクラファンしか方法がなかった。業界的なしがらみに支配されることなくクリエイティブな活動をするために、自分たちで資金を確保するしかないと思ってクラファンをはじめて。そこで僕らができることは、いい音楽をいいクオリティで、何十年も耐えうる消費しきれないものに磨き上げること。だから「一緒に作っている」っていうイメージなんですよね。

若林:一方ではレーベルもお金を出してるわけで、三船さんは時間も含めて、持っているリソースを全部差し出して、何だったら持ち出しになっているかもしれない。そう考えると一種の協同組合というか、みんなが出資してシェアホルダーになって、それに対して出資分の相応の決定権を付与されて、作品やライブができていくみたいなイメージ……ってことなのかな。経済学的にはどう説明できるんですかね? でも、明らかに世の中的には、そういう方向に進んでいるような気はします。

三船:GDPで測れない何か、みたいな。

若林:ですね。いったいどういう行為なんでしょうね。不思議。



小熊:でもたしかに、今回のアルバムの音の良さは尋常じゃないですよ。こんなサウンドが日本のインディ規模で作られたというのは、もっと騒がれるべきだと思います。

若林:本当に音がいい。さっき「70億人に向けた」っていう三船さんの言葉にありましたけど、グローバルな音作りにしようっていう意図はあったんですか?

三船:そうですね。海の向こうの音楽に感動してきた僕としては、もともとバンドを始めた頃から「どうして日本と外国でこんなに音楽が違うんだろう?」というのはずっと考えていて。日本のビジネスフォーマットでは越えられない壁というか。だからこそ、その文脈に乗らない形で音楽を作れないかなと考えてきました。

それで幸運なことに、最初のアルバムからアメリカでレコーディングができて(2014年の1stアルバム『ロットバルトバロンの氷河期』はフィラデルフィア制作)、今ではテイラー・スウィフトのエンジニアをやってるジョン君(Jonathan Low)とか、ザ・ナショナル周りの人たちと出会うことができた。昔から変なアイデアを思いつくのが得意で、当時はエキサイト翻訳で英語のメールを書いて、「あなたの作る音が好きなのでやってくれませんか」みたいな小学生レベルの英文を送ってました。

小熊:そこで怖気付かずに「まずはやってみよう」となる行動力が、作品のクオリティにも直結しているし、ロットの活動を支える根底にありますよね。

若林:『極彩色の祝祭』ではダン・キャリーにエンジニアをお願いしてますよね。小熊くんともども、いま一番注目しているイギリスのプロデューサーですよ。

ダン・キャリー

小熊:ここ数年でUKロックが復活したとも言われるなかで、フォンテインズD.C.、ブラック・ミディ、ケイト・テンペストといった有力者を手がけてきた影のキーマン。彼の参加にはどういう経緯や狙いがあったんですか?

三船:今回のアルバムでは血の通った音楽というか、奇を衒わずストレートにメッセージを伝える、カッコつけない素直な音楽を作りたかったんですよね。だから、制作中はリモートでの作業もあったんですけど、レコーディングでは同じ空間でちゃんと空気を震わすバンドサウンドを作ることに集中していたんです。

それで、ロックダウンが終わった後に大きいスタジオを借りて、久々にメンバーみんなで集まり、「一緒に音を出すって楽しいね!」って初めてバンドを組んだときみたいに感動しながら録音したんです。それで音にパッションがたくさん込もったから、ミキシングではイギリスのエンジニア特有のクールさ、意地悪さみたいなものがほしいなと思ったんですよね。アメリカのエンジニアだと、このバイブスを活かし過ぎてしまう。そこをクールに料理してくれる人にお願いすることで、そっちに振り切りすぎない「クールであったかい」バランスが出せるんじゃないかと思って、ダンにお願いしました。






小熊:ダン・キャリーは自分が立ち上げたスピーディー・ワンダーグラウンドというレーベルで、サウスロンドンのローカルな新鋭たちをフックアップしたりもしていて、実は以前から話を聞いてみたかったんですよ。

若林:今度は3人でダン・キャリーにインタビューしましょうよ。つないでください(笑)。

三船:それは面白そう(笑)。

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