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元blink-182の一員を魅了するUFO研究

別の日、2015年に設立されたUFOを中心に研究する営利団体「To the Stars Academy of Arts & Science」(以下TTSA)の事務所に向かっていた筆者は、到着直前に1通のメールを受け取った。どういうわけか筆者が砂漠でのイベントに参加したことを突き止めたTTSAは、この取材が真剣なものかどうかを確かめようとしていた。

これは奇妙に思えた。なぜならTTSAは、名盤『エニマ・オブ・ザ・ステイト』を生んだblink-182の結成メンバーの1人である、トム・デロングの産物だからだ。デロングがバンドをやめた理由は、UFOムーブメントの伝道師になるためだった。

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デロングは、1947年にロズウェル郊外に墜落した航空機は、宇宙人とアルゼンチンに亡命したナチスの科学者たちが共同で開発したものだと主張していた。また彼は冷戦が激化しなかった理由として、ソ連とアメリカが地球外生命体からこの星を守るために、秘密裏に同盟を結んでいたからだという持論を展開していた。

その後、デロングは方向転換する。ここ2年ほどで、以前のように陰謀論を声高に唱えなくなった彼は、UFOムーブメントのメインストリーム化における最重要人物となった。サンディエゴ郊外のエンシニータスにあるTTSAのヒップなオープンエアのオフィスで、デロングは筆者の取材に応じてくれた。

デロングは昔から、『トワイライト・ゾーン』で取り上げられたあらゆることを強く信じていた。子供の頃、地元パウウェイの図書館に強制的に連れて行かれた際に、彼はネッシーとUFOのことばかり調べていたという。blink-182がまだ無名だった頃には、車で移動中に揺られながらUFO関連の本を読みふけっていたという。1999年には、バンドは「エイリアンズ・エグジスト(宇宙人は存在する)」という曲をレコーディングしている。彼は時折メンバーに、ハイになって一緒にUFOを探しに行こうと誘っていたという。メンバーたちは彼に付き合うこともあったが、ハイになってビッグフットを探しに行こうと言われた時には固辞したらしい。


To the Stars Academy of Arts & Scienceを設立し、ロックスターからUFOムーブメントの伝道師に転身したトム・デロング(Photo by LeAnn Mueller for Rolling Stone)

彼はカリフォルニアの砂漠でキャンプをしていた時に、実際に宇宙人に遭遇したという。寝袋に包まっていると、どこからともなく複数の声が聞こえてきたらしい。

「数百人はいそうな分厚いコーラスだった」。デロングはそう話す。「特筆すべきなのは、記憶の一部にぽっかり穴が空いてたことだ。一緒にいた仲間の1人はその声を聞いてるんだけど、他の奴らは全員眠ったままだった」

デロングには常に、セールスマンとしての才能があった。音楽作品は言わずもがな、陰謀論の宝庫というべきウェブサイトStrange Times(既に閉鎖)のローンチも成功させた。歳を重ねるにつれてその才能には磨きがかかっていき、スケート用品販売ビジネスや、パール・ジャム等のバンドのグッズ販売を促進する事業なども成功させた。やがて彼は、UFOとその他の超常現象にフォーカスするエンターテインメント企業、TTSAを設立する。スケートボーダーが謎に挑む私立探偵に転身するというシナリオは、ハリウッド的なビジネスチャンスを匂わせる。

Tシャツが売れるようになると、デロングは『kret Machines: Chasing Shadows』と題された700ページに及ぶスリラー小説を共同執筆した。フィクションと事実を混ぜた同書には、ロズウェルの航空機墜落事件にアルゼンチンに亡命したナチスの科学者が関わっていたというデロングの持論も記されている。デロングは突飛な持論に関する質問を巧みに回避していたが、これについては饒舌だった。

「南米に亡命したドイツ人たちのことは映画にもなってる」。デロングはそう話す。「歴史的証拠が残されてるんだ。フアン・ペロンがナチスのメンバーを匿ってたことは、まぎれもない事実なんだよ」(元ナチスのメンバーが南米に亡命したのは事実である。ただし、その一部が集団でアルゼンチンに向かい、宇宙人の技術を用いて宇宙船を打ち上げた証拠があるというのは事実ではない)

億万長者になるという偉業を成し遂げたロックスターたちが、他の分野でも成功を収めようとするのは珍しいことではない。デロングは実際に、それを実現してみせた。影響力と経済的成功を両立させるUFO帝国を築こうとした彼は、政府の要人に近づく方法について、ジョージ・ナップに助言を求めた。

ナップはいくつかアドバイスを授けた。彼はデロングに、何十年にも渡ってUFOの存在を否定し続けて身動きが取れなくなっている政府に、自分が手を差し伸べると主張するよう提案したのだった。

Translated by Masaaki Yoshida

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