TikTokで人気、「ラリった初音ミク」ことアシュニコの魅力を辰巳JUNKが解説

アシュニコ(Photo by Vasso Vu)

TikTokで160万以上のフォロワーを持つアシュニコ。米ノース・カロライナ生まれ、現在は英ロンドンで活動中。「ポップのアンチテーゼ」と呼ばれる彼女の不思議な魅力について、ライター・辰巳JUNKが解説する。

「ビジュアル面はつねに大事。良い音楽アーティストであると同じくらい、優れたビジュアルアーティストでなくちゃいけない」。24歳にして作家性を周知させたアシュニコが言うのだから、頷かざるをえないだろう。「ラリった初音ミク」と呼ばれる彼女のトレードマークは、青色のロングヘアー。新曲「Cry」でコラボしたグライムスと同じく、日本アニメや黙示録テーマのビデオゲームのモチーフを得意としながら、ときにグロテスクに振り切れるビジュアルワークが強烈なアーティストである。

とくに象徴的なのが、知名度を一気に向上させた代表曲「STUPID feat. Yung Baby Tate」だろう。ミュージックビデオは、客演Yung Baby Tateとともに血まみれになりながら元カレたちを殺して回るショッキングさ。リリックも過激だ。ヘヴィなイントロで爆笑まじりにシャウトされる“Wet”とは、元カレの濡れたペニスのような状態を指している。続くコーラスも強烈だ。「馬鹿男たちは思ってる/私が彼を必要としてるって(“Stupid boy think that I need him”)」。つまり、ミュージックビデオそのまま、元カレに対する憤怒をぶちまけるトラックである。

【動画】斧を手にした血まみれのアシュニコが、元カレたちを殺していく過激なミュージックビデオ

これがTikTokでウケた。2019年秋リリース直後、当時の恋人と踊ったマイリー・サイラスを含めて、大勢のユーザーたちが「STUPID」で自己表現をしていったのだ。アシュニコ自身はアプリ自体ダウンロードしていなかったというが、クリエイティビティとユーモアを重んじるそのプラットフォームは、彼女のアーティストとしての志を叶える場として最適だったかもしれない。傲慢な勘違いをする元カレを嘲笑う「STUPID」の本懐は、実質的に「お前なんていらない」と表明することにある。女性たちに「男性のために自分を小さく見せなくて良い」メッセージが込められている楽曲なのだ。その後リリースされた「Daisy」にしても、激しく真摯な想いが宿っている。アシュニコの分身たる主人公は、強姦犯を駆逐して家父長制に殴り込み、名刺代わりにデイジーの花を残していく自警団的ヒーローとされる。「私はシンデレラじゃないけど靴は好き/ガラスの靴でも厚底を/ビッチ、私は好みにはうるさいよ」……女性に従順さを求める社会規範を強烈に跳ね返しながらファッショナブルな嗜好も愉しんでいくアシュニコは、強烈な表現とハードな音楽を通してエンパワーメントを広めつづけている。TikTok投稿群をピックアップした「Daisy (TikTok Compilation Video)」を観れば、不条理な経験すら活かして自己表現する若者たちのヒーロー的存在であることも伝わってくるだろう。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE