ジェイコブ・コリアーが語る、音楽家が新しい世界に飛び出すための方法論

クラウドファンディングの可能性ー技術と情熱、やさしさを共有する意味

―あなたはクラウドファンディング・プラットフォーム「Patreon」も活用していますよね。

ジェイコブ:今の時代、ファンとアーティストの間に距離はそこまで必要ないんだ。20年前はアーティストが音楽を作ったあと、レーベルに提出し、それがパブリシスト経由で雑誌に載って、ようやく個人に届いていた。今はアーティストは個人に直接届けられるし、その逆もありだ。Patreonはまさに21世紀型インターアクションとファンドレイジングの形だと思う。しかも段階がいくつかあって、遊びの要素もあるので、これまで以上にアーティストとファンの関係は密になる。僕のPatreonにいるのはかなり熱心なファンばかりだから、彼らにはとっておきの特典をつけるんだ。Zoomでのファンミーティングを月に一度やって曲を演奏したり、彼らの質問に答えたり。「Logic Session Breakdown」というのもあって、そこで『Djesse Vol.3』の曲を解説したり、そういうことを実現出来る場があるのは素晴らしいことだね。

今、世界中のミュージシャンが稼げなくて苦しんでいる。ミュージシャンの多くはライブ・パフォーマンスが主な収入源だから。僕は想像力を働かせて、それに代わる別の方法を考えたいんだ。音楽を作り続け、このライフスタイルを持続させるためにもね。でも、より大切なのは人とつながること。音楽にできることがあるとしたら、世界を一つにすることだ。ロックダウンだからと言ってそれができなくなる必要はない。


Patreon(パトレオン)は2013年、米サンフランシスコで設立されたプラットフォーム。2020年9月現在、20万人のクリエイターと600万人のユーザー(パトロン)が登録し、年間の総支援額は10億ドル(約1060億円)。アーティスト第一主義を掲げ、ファンとコネクトしながら長期的に活動できるよう、一括課金型ではなくサブスクリプション型を採用している。

―ライブの収入が絶たれたバンドメンバーやスタッフのために、自宅から一人楽曲制作する様子を8時間ライブ配信して、1日で31000ドル(約330万円)をクラウドファンディングで集めたりもしたそうですね。そこでもPatreonを活用したみたいですが、そのことについて聞かせてください。

ジェイコブ:実は2016年にも、『In My Room』のレコーディング費用をすべてPatreonでまかなったんだ。Patreonを使ったのはその時が初めてだった。そして「#IHarmU」というキャンペーンを始めた。アマチュアやプロのミュージシャンを問わず、世界中のファンに15秒のメロディを送ってもらい、今座ってるこの椅子に座りながら僕がそこにハーモニーを乗せ、それを何人ものジェイコブが歌って演奏するのをビデオにしてSNSにあげたんだ。最終的に130くらいのメロディが送られてきて、数年越しで70くらいにハーモニーを付けた。『In My Room』はお金を僕に払ってくれたファン全員によって作られた、とてもクールなプロセスだった。

しかし、まだいくつかのメロディが残ったままだったので、それを利用して何か助けることは出来ないかと考えた。そこで8つのメロディを次々と、全くの無音からフルのハーモニーまで重ねる様子をYouTubeで生配信したんだ。大変だったけど、楽しかったよ。今、バンドやクルー達には収入がない状態なので、彼らへの募金を募ったんだ。ツアーに出る予定で仕事を約束していたから、それが叶わなくなり、わずかでもお金を彼らに渡すのは僕の責任だと感じた。思っていた以上に、みんなからのやさしさを受け取れて、少しでも友人達のためにお金を集められて満足しているよ。


2016年に公開された「#IHarmU Vol. 1」にはジェイミー・カラムも参加。


2020年5月、1日で3万ドル以上の寄付を集めた「#IHarmU Epic Marathon」の様子。

―先ほど話していた「Logic Session Breakdown」は、自身が作った楽曲のLogicの編集画面をシェアして、ソフトの仕組みを解説するというもので、1年くらい前にスタートしましたよね。どういう意図で始めたんですか? 

ジェイコブ:僕は自分のアイデアや、曲の仕組みや音楽一般について説明するのが好きなんだ。音楽ってすごく面白い言語だからね。よく「このクレイジーな音はどうやって作っているの?」という質問がくるから「じゃあ、それに答えよう」と。普段から家の中にある変なモノを使った音だったり、ツアー先で携帯に録音したーー飛行機の音とか人が歩いてる音とかーーそういった音はすべて曲の一部になるから。

そうやってクリエイティブになるためのドアをたまに開けて中を見せて、何があるかを話すのはとても面白い機会じゃないかと思うんだ。誰もがクリエイティブになるという意味でね。見た人が「どんなものを使ってでも音楽が作れるんだな」と驚いたり、インスピレーションを受けるのを見ると、僕も嬉しくなる。正式な音楽教育を受けてなくても、何かのエキスパートじゃなくても、アイディアを実現させたい気持ち、それが変化を起こしている過程を見る気持ちがあれば、それでいい。「Logic Session Breakdown」がそれを証明してると思う。

僕は何か特定の楽器の達人というわけではない。ただ、絶対に結果を出してみせると決めているんだ。あと、自分の気持ちに寄り添うものを追求することに関しては完璧主義者だ。それを説明すると、リスナーの音楽の聴き方自体が変わるみたいだよ。僕の音楽に対してもね。

―そんなふうに手法がシェアされることで、みんな大きな学びを得ていると思います。そして、あなたはPatreonを介し、スキルをシェアすることから収入を得ると。

ジェイコブ:これまでとは違うお金の生み方だけど、僕にはすごく理にかなっていると思えるよ。



第62回グラミー賞で「最優秀アレンジメント インストゥルメンタル/アカペラ部門」に輝いた「Moon River」のMVと、「Logic Session Breakdown」の一環で同曲について解説した動画。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE