ジェイコブ・コリアーが語る、音楽家が新しい世界に飛び出すための方法論

やりがちなことをいかに「やらないか」 一つの世界に固執せず、好奇心を追う

―新作『Djesse Vol.3』のコンセプトを教えてください。

ジェイコブ:『Djesse』はアルバム4枚分のプロジェクト。1つの大きなアルバムの中に4つの宇宙がある。それぞれの宇宙にはそれぞれのジャンル、サウンド、コラボレーターがいる。『Vol.1』はメトロポール・オーケストラのアコースティックなサウンドや、クワイアを用いた壮大な宇宙だった。『Vol.2』は同じアコースティックでもフォーク寄り。ソングライティングやロックの要素、ライトなファンク、アフリカ、ポルトガルなど世界の音楽をつなぎたかった。

で、『Vol.3』はと言うと、ヒップホップ、R&B、エレクトロニック、デジタル・サウンド、ポップミュージックを全部一緒にしたようなもの。そのスペースに見合うサウンドにしたかったから、ビッグなコラボレーターが必要だった。僕にとってはポップミュージックとヒップホップ、フォークとクラシックの間にはなんの差もなくて、全て一緒なんだ。それを実践することで説明するのがエキサイティングなんだよね。そこでT-ペインやジェシー・レイエズ、タイ・ダラー・サイン、マヘリア、トリー・ケリー、キアナ・レデに連絡し、この四部作の旅のうちの1/4のサウンドを織り成すファブリックを作り上げた。これまで以上にサウンドデザインを意識したとさっき話したけど、「変な」(weird)サウンドに仕上がった点が気に入っている。人ってシリアスに考えすぎて、変なものを忘れちゃう。でも人生ってそこまでシリアスじゃない。今回、ダークで変なスペースに入りながら音楽を作れたこと、それを『Djesse』のストーリーの一部にできたのはとても楽しかった。

それと実は、アルバムに収録したよりもずっと多くの曲を書き、その過程でコラボレートを続けて、最終的に重要な曲を選んだんだ。例えばトリー・ケリーとの曲は2017年に書いたものだけど、「Light It Up On Me」は2カ月前にようやく書けた曲だったりする。つまり、曲は僕の人生経験という意味でも、数年分に及んでいるんだ。飛行機の中、ツアー中のバスの中、世界各地でラップトップに残したストーリーを全部家に持ち帰り、意味が通じるように一つにする。そこがクールなんだよ。


第63回グラミー賞「ベスト・R&B・パフォーマンス」部門にノミネートされた「オール・アイ・ニード」



―『Djesse Vol.3』ではあなたの音楽の特徴でもあった、世界中の音楽からインスパイアされた斬新なコーラスワークや複雑なリズムが前面に出ていない印象です。シンプルでファンキーなリズムと、ハーモニーの範囲内だけでできる音楽の可能性を追求しているようにも思いました。ジャケットの色が青と黒と白だけなのと同じように、音に関しても色のパレットが少ない気がしました。

ジェイコブ:なるほど。こういうことをやりたいとはちょっと前から考えたんだ。昔から僕は「過剰なくらいに盛ってしまう」マキシマリストだった。でも「今回はハーモニーはやらない」とか「クレイジーなリズムは避けよう」と考えてそうしたわけじゃない。作りたかったのは、人として心を興奮させられる音楽。そして、そういう興奮させられるものは「自分が知らないこと」であることが多いんだよ。『Vol.3』に多くあるプロダクション、サウンドの要素は、これまでの自分が知らなかった世界だ。知らなかったけど、すごく興味を持ち、やり始めてみて思った。これをやりつつ、従来のようにクレイジーなほどに密な音楽情報ーーハーモニーとかリズムとかーーを盛り込んだら、あまりにも混雑しすぎてしまうってね。だから『Vol.3』のチャレンジは、自分がつい「自動的にやりがちなこと」を、いかに「やらないか」ってことで、その上でストーリーのつじつまを合わせるか、だったね。

かと言って、もう今後やらないと言ってるわけじゃない。極端なハーモニーは僕が大好きなことだから! でも、今回は実験することが重要だった。来年出るかもしれない『Djesse Vol.4』では、それらすべてのコンビネーションやすべてのスペクトラムを網羅した、ミニマムなものからマキシマムなハーモニーまでを含むことになるのかもしれないね。今のキャリアの段階で、僕は好奇心を追って、なるべく多くのタネを蒔くことが大事だと思ってる。それが2年後、5年後、10年後、20年後の音楽の成長に繋がるように。今の僕の仕事は、居心地良いコンフォートゾーンに留まらず、一つの世界から外に飛び出すこと。大きくて濃密な世界だけでなく、たまにはミニマルな世界を知ることで、「最大限(マキシマム)の世界」に戻った時、改めてその良さがわかるんだと思う。

―自分でビートを作ったり、プログラミングしたりという、これまでやらなかった作業への挑戦はいかがでしたか?

ジェイコブ:興味深かったよ。ビートはアルバムに入れてなかっただけで、10年前くらいから作ってたんだ。ただ、厳密なビートというより、ジェイコブのビートというだけさ(笑)。ちょっと変わったファブリックーーハーモニーとか、変わったサウンド・テクスチャー、たくさんのリズムなどで出来上がっている。一つ気づいたのは、音楽的な観点からビートを作ってるアーティストが最近はあまりいないってこと。ビートはラッパーにとっての踏み切り板でその上に言葉を吐き出し、シンガーはその上にメロディを書く。でも、本当はビート自体がとても音楽的で、多くの意図や重力を含むことが出来る。だから最適なモメンタム(勢い)と重力を持つビートを作り上げるのは、チャレンジであると同時に喜びだった。このサウンドはこのサウンドにつながり、それはまたこのサウンドにつながる……というように、納得いく、つじつまの合う「旅」でなければならないからだ。音でテンションを作り、テンションをリリースするとこうなる、とストーリーが語れるのと一緒で、ビートにもダウンビート、アップビート、このキーではダウンビートに戻り……などというふうに科学がある。そこの部分に僕はずっと興味があった。J・ディラのようなプロデューサーはその好例だ。彼はビートをアートフォームとして捉えていた。何を選ぶかが絶妙で正確だ。そういう形のストーリーテリングができたことが『Vol.3』の気に入ってる点だよ。

―あなたは「声」の表現を大きく進化させてきましたが、今回はラップもやってますよね?

ジェイコブ:大変だったよ(笑)。でも楽しかった。エミネムやバスタ・ライムスみたいに早口にまくし立てるラッパーが大好きで、ずっとやりたかった。自分はラッパーじゃないし、なろうとしてるわけでもない。ジェイコブっていうだけ。でも、僕が大好きな音楽の一つがラップミュージックだから、何曲かで「スピード・ポエトリー」みたいなアプローチを取ってみたんだ。早口でメタファー満載で、いろんなことの万華鏡。典型的なラップじゃなくて、言葉のサウンドで実験するというのかな。ノート(音)ともコードとも一緒なんだ。ちなみに、「Count The People」のスピードポエムの下で鳴ってるビートは、庭のスプリンクラーが水を撒いてる音だよ。


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