ジェイコブ・コリアーが語る、音楽家が新しい世界に飛び出すための方法論

大切なのは「聞く」こと、そこから自分の声が見つかる

―6月4日にあなたはTwitterでブラック・ライヴス・マターについて投稿しています。そこでは「As a white musician」「As a white man」という言葉で、白人としての自分の立場を明示し、敢えて厳しい立場に身を置いて語っていました。この時の思いを聞かせてもらえますか? 


ジェイコブ:すごく重要な質問だね。ここ数カ月はいろんな意味で本当につらい時期で、世界中で皆それぞれの形でそれに立ち向かってるんだと思うんだけど、あれはその中でも一番心が痛んだことだった。そこで語られていたのは何百年も前から言われてきたことだ。今はその声に耳を傾けなければならない重要な時期だった。5月、6月くらいだったよね。僕は1つ、2つの音楽を聴くタイプじゃなく、それこそ探せるものは何でも聴いてインスピレーションを受けるのが大好きだ。そして音楽だけでなく、その音楽が生まれる背景やカルチャーや人間とインタラクトする。でも、しばらくは何も言いたくなかった。人の言葉を聞きたかった。十分にノイズ(外野の声)が大きかったから、それ以上のノイズになりたくなかったんだ。でも、ある時点まで来た時に、やはり自分の声を上げるのが重要だと思った。僕が世界の誰よりも尊敬しているのはブラック・コミュニティのミュージシャン達だ。彼らの声がちゃんと人に聴かれていないのだとしたら、それは嫌だった。特に僕のようにミュージシャンとして生計を立てている者は、彼らの作って来た音楽にインスパイアされ、今があるわけだから、彼らと僕の思いは一緒だということを示したかったんだ。世界にとって必要なのは(相手の話を)「聞く」ことだ。こちらが話したり、怒ったりするよりも、相手の話を聞く。それってミュージシャンとしての重要なスキルでもあるんだよ。自分を無にして、まずは相手の声を聞く。そうすると、その中から自分の声が見つかるんだ。

6月のあの時は、自分の言いたいことが見つかった時だった。他人の意見に耳を貸したからだ。人間としての責任について、自分以外の世界について、自分の言葉を発した重要な時期だった。ブラック・コミュニティは今、世界中で大きな声となっているけど、他にも違う意味で押さえつけられているコミュニティがある。同様に優遇されている人たちもいる。そういった(これまで閉じられていた)箱を開けて、中をちゃんと見るのに今以上のタイミングはないと思う。それを「恐れることなく」やる。とても健全なことだよ。どこから自分が来たのか、どういう位置にいるのか、自分の周りの人たちはどこから来たのか……そういったことを見直し、彼らのストーリーに耳を傾ければ、そこから学べることがきっとあるんじゃないかと思うんだ。


第63回グラミー賞「ベスト・アレンジメント・インストゥルメンタル・アンド・ヴォーカル」部門にノミネートされた。「ヒー・ウォント・ホールド・ユー」

―最後に、あなたはずっとワンマンライヴをやってきましたが、近年はバンドでツアーを行い、しかもオーディエンスにも歌わせるなど、より「触れ合う」パフォーマンスになっていました。ところが、この自粛期間でまた狭い範囲に閉じ込められることになったわけですけど、今後のライブに現在の自粛期間はどう反映されるのでしょう?

ジェイコブ:アイディアはいっぱいあるよ。去年の末、初めてバンドでやり始め、今年はさらにメンバーを増やして、オーディエンスを交えたライブを計画していたから、いずれやりたいと思ってるんだ。今、歌えるバンドというコンセプトに興味があって、オーディエンスに歌わせるだけじゃなく、メンバーが全員ハーモニーパートを歌えて、演奏もできる、そんなものを目指したいんだ。従来のボーカル・ハーモナイザーやループのようなテクノロジーをただ使うのではなく、ステージの上で、オーディエンスの目の前ですべてが起こるものを作り出し、最高のサウンドを出す手段としてテクノロジーを使う感じ。お互いの音を聴くためのヘッドホンとか、ドラマーが変な音を再現するためのドラム・パッドとか。つまり、音楽を作るためのテクノロジーということだね。

かつてのワンマンショーでやっていた、機材の円に囲まれてループで全ての音を出すフィーリングも大好きだったけど、今はそこから飛び出したい。この部屋から出て、殻を一つ破って世界に出ていく、そんな感覚だね。予想はつかないけど、再びツアーに出る頃には時代が変わってしまっていると思う。僕は毎週のように新しいアイディアが浮かぶから、1年後には何百というアイディアが生まれてるはず。それを全て集めておいて、その時がきたら、どれが最もしっくりくるを選び出したいと思っているよ。






『Djesse Vol.3』
ジェイコブ・コリアー
Hajanga / Decca / ユニバーサルミュージック
2020年11月27日リリース
視聴・購入リンク:https://jazz.lnk.to/JC_Djesse3PR

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