裏拍と表拍が織りなす奇っ怪なリズム、ルーファス代表曲を鳥居真道が徹底考察

最後にドラムに注目してみます。キックとスネアだけを取り出せば、至ってシンプルな「ドンタンドンタン」というパターンだとわかります。しかし、これがクラビの「ブンチャッ」と合わさると、半拍ずれたパターンに感じられてしまうのです。つまり「ドンツツタンツツ」が「ツツドンツツタン」に聴こえるということです。仮にドラム単体で聴いたとしたら裏と表を逆さに解釈するということはないでしょう。けれども、クラビと同時に聴くと、「ツツドンツツタン」という変則的なビートに聴こる。そこに違和感があるというわけではありません。これはドラムの「ドンツツタンツツ」よりもクラビの「ブンチャッ」のほうが、場を支配する力を発揮するということなのか。はたまた、アフロビートや中南米産のレアグルーヴ、あるいはニューオリンズ・ファンクや福生産のナイアガラ・ファンクなどにより、変則的なドラムパターンに慣らされているためか。なんにせよ一つ言えることは、非常にシンプルでオーソドックスなビートのパターンが奇っ怪に聴こえることにこの曲の妙味があるということです。

ちなみに「Tell Me Something Good」が収められた『Rugs To Rufus』の一曲目「You Got The Love」もかなり際どいリズムの曲です。それと、最近アンドリュー・ゴールドのヒット曲「Lonely Boy」も裏表が瞬時に判断できないリズムだということに気が付きました。是非こちらも聴いて混乱していただけたらと思います。



音楽はセーターと違って、裏表逆さに聴いても意外と成立するなんてことを知った初冬なのでした。



鳥居真道


1987年生まれ。「トリプルファイヤー」のギタリストで、バンドの多くの楽曲で作曲を手がける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライブへの参加および楽曲提供、リミックス、選曲/DJ、音楽メディアへの寄稿、トークイベントへの出演も。Twitter : @mushitoka / @TRIPLE_FIRE

◾️バックナンバー

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Vol.2「高速道路のジャンクションのような構造、鳥居真道がファンクの金字塔を解き明かす」
Vol.3「細野晴臣「CHOO-CHOOガタゴト」はおっちゃんのリズム前哨戦? 鳥居真道が徹底分析」
Vol.4「ファンクはプレーヤー間のスリリングなやり取り? ヴルフペックを鳥居真道が解き明かす」
Vol.5「Jingo「Fever」のキモ気持ち良いリズムの仕組みを、鳥居真道が徹底解剖」
Vol.6「ファンクとは異なる、句読点のないアフロ・ビートの躍動感? 鳥居真道が徹底解剖」
Vol.7「鳥居真道の徹底考察、官能性を再定義したデヴィッド・T・ウォーカーのセンシュアルなギター
Vol.8 「ハネるリズムとは? カーペンターズの名曲を鳥居真道が徹底解剖
Vol.9「1960年代のアメリカン・ポップスのリズムに微かなラテンの残り香、鳥居真道が徹底研究」
Vol.10「リズムが元来有する躍動感を表現する"ちんまりグルーヴ" 鳥居真道が徹底考察」
Vol.11「演奏の「遊び」を楽しむヴルフペック 「Cory Wong」徹底考察」
Vol.12
クラフトワーク「電卓」から発見したJBのファンク 鳥居真道が徹底考察
Vol.13 ニルヴァーナ「Smells Like Teen Spirit」に出てくる例のリフ、鳥居真道が徹底考察
Vol.14 ストーンズとカンのドラムから考える現代のリズム 鳥居真道が徹底考察
Vol.15 音楽がもたらす享楽とは何か? 鳥居真道がJBに感じる「ブロウ・ユア・マインド感覚」
Vol.16 レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの“あの曲”に仕掛けられたリズム展開 鳥居真道が考察
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