エルヴィス・コステロが語る、キャリア屈指の最新作と「過去に縛られない」自身の歩み

「作り込んだアルバム」を経て辿り着いた境地

―才能豊かなミュージシャンが集まったという証拠ですね。でもこのような自然の流れに任せたアプローチは、他のミュージシャンよりもあなた自身が楽しんだのではないでしょうか?

コステロ:僕はいろいろなやり方でレコードを作ってきた。最初にスタジオ入りした時は、何の計画もなく、何の準備もしていなかった。ヘルシンキに到着した時は、僕が初めてレコーディングに臨んだ時と同じ感覚だったよ。初レコーディングの時は専属のバンドもいなければ、何をどうすればよいかも考えられなかった。右も左もわからず、とにかくスタジオへ入り、自分よりも年上で経験豊かな素晴らしいミュージシャンたちと共演した。

彼らは僕のアイディアを受け入れて、曲も気に入ってくれたようだった。彼らはスタジオでの僕のやり方を理解し、後にジ・アトラクションズを結成した。バンドとして毎日ツアーで一緒に演奏しながら、お互いのプレイスタイルを理解していった。そしてまたスタジオ入りして次のレコードを作る頃には、お互いができることを既に理解し合っていた。しかし僕らは、スタジオを最大限に活用していたとは言えなかった。ただ演奏して、録音していただけだった。

だから過去の経験に頼るのでなく、まっさらだった初心に返って新たな発見をすることも、たまには良いことだ。凝った作りのアルバムもあった。例えば『インペリアル・ベッドルーム』や『スパイク』などは、かなり複雑なプロセスでレコーディングした。

前作『ルック・ナウ』もそうだった。事前にかなり作り込んでからレコーディングに入った作品だ。60年代のロサンゼルスでのレコーディングのようだった。リズムセクションを固めてアレンジを決め、どこでコーラスが入ってどこでどの楽器が入ってくるかが予めわかっている。ここでホーンが入り、ここにストリングスが来るとかね。事前に準備されたものに合わせて歌うのさ。その時々によって、エネルギーも違ってくる。どの作品が良いか悪いかなどとは言えない。どちらのアルバムも良い。でもそれぞれに特徴がある。僕は、その違いが気に入っている。どれも同じであって欲しくはないからね。



―それぞれが異なるものだとしても、今回のアルバム全体を通じて共通したスタイルというものが無いのに驚きました。「ノー・フラッグス」で陽気なサウンドを聴かせたと思えば、次の「ゼイア・ノット・ラフィン・アット・ミー・ナウ」は情感的な雰囲気です。物事はより自然発生的だということを理解するのは、大きな意味があります。でも、今回はより「ビビッド」にしたいというあなたのコメントに一致します。

コステロ:前のアルバムより「もっと」ビビッドにしたいという意味ではないが、「ノー・フラッグ」で歌っている内容は自分でよく理解していた。この曲は、自分が何も信じられない場所で目覚めた日のことを歌っている。僕は今、自分の声で伝えている。通常の暮らしの中で感じるのではなく、特別な時期だからこそ感じることだ。今は誰もが、自分たちが思う以上にこう感じることが多いと思う。信じるべきものが無く、敬意を表すべき国家もない。神もいないし、将来も希望も無い。そんな日常を歌った曲だ。

「ウィ・アー・オール・カワーズ・ナウ」では、「お互いに愛しあえず、愛するよりも憎む方がずっと楽な状況では、我々は臆病者になる」ことを歌っている。シンプルに言えば「臆病」と表現できる。それから「アイ・ドゥ」のようなラヴソングもある。永遠の愛について共に考える曲だ。正に人生の瀬戸際と言える。静かで表現豊かな曲だが、生半可な気持ちでは歌えない。

だから僕はビビッドという表現を使った。スローなテンポで、激しい感情を込めて献身的に歌わなければならないからだ。曲が始まってホーンのメロディが流れる。唯一、誰もが理解しやすい曲だと思う。ミュージシャンたちは、僕の頭の中に浮かんだメロディを演奏している。それから僕のヴォーカルへと続く。僕らはアルバム全体を通じて、この雰囲気を維持したいと思っていた。

「ヘイ・クロックフェイス」はまた別で、もっと単純な内容の曲だ。愛する人を待つ間は時間の流れがとても遅いが、会ってから帰ってしまうまでの時の流れは非常に早く過ぎるという、誰もが経験する話さ。一緒にレコーディングしたミュージシャンたちの得意な、もっとのんびりした時代の音楽スタイルを採り入れた。歴史を辿るというよりも、彼ら自身がこの音楽を初めて作りました、というような感じで演奏している。曲の最後ではファッツ・ウォーラーの「ハウ・キャン・ユー・フェイス・ミー?」を引用している。どちらの曲にも共通したユーモアが感じられるからね。

陽気な曲の後は、「ザ・ラスト・コンフェッション・オブ・ヴィヴィアン・ウィップ」のような曲もある。スティーヴ・ナイーヴとミュリエル・テオドリの作った曲に、僕がショートストーリーを加えた。テンポの速い曲や遅い曲、リズム中心の曲やメロディ中心の曲など、さまざまな曲があるが、どの曲に対しても、それぞれの特徴を最大限に引き出そうと努力している。

Translation by Smokva Tokyo

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