エルヴィス・コステロが語る、キャリア屈指の最新作と「過去に縛られない」自身の歩み

「過去に縛られない」コステロの歩み

―結末を見れば全てがわかる、ということですね。このアルバム全体として、静かな中にとても情熱が感じられます。私個人の意見ですが、これまでのあなたの音楽で、これほど特定のサウンドにこだわった作品は無かったように思います。誰もがアーティストをジャンル分けしたがる傾向にありますが、あなたの作品は常に自由な志向を持っています。自由な感覚を楽しんでいるのでしょうか?

コステロ:2つの要素がある。ひとつはサプライズ。もうひとつは昔を振り返ること。聴く人を感情的にさせられる。僕は意識してそういった曲を書いている。かなり前に書いた曲を聴きたいという人がいるのは、誇らしいことだと思う。ただ、過去に作ったり歌った曲だけに縛られない新しい曲を作りたい、という欲求もどこかにある。

古い曲が受けるからといって自己満足に浸ることなく、釣り合いを取っていきたいと思う。僕自身もそうなので、誰かをジャンル分けしたい気持ちは理解できる。好きなアルバムはあったが、以前は他人の作る曲に興味が無かった。その後、気になるアーティストが現れて、最新の作品が出るたびに聴きたいと思うようになった。でも誰に対してもそうだという訳ではないだろう? だから僕も人々の気持ちは理解できるよ。

何か違ったことをするのを制限されたくはない。そんなのは受け入れられない。もちろん人気の出ないこともあるだろう。僕も音楽スタイルを変えた時期もあった。でも常に学び、経験したいという気持ちでやってきた。それが不誠実だとは思わない。だから「このアルバムはどうやって作ろうか?」などと決めてから取り掛かったことはない。ただ作りたいものを作る。それが僕のやり方さ。


Photo by Lens O’Toole

僕の作品が気に入らなくても、世の中には聴くべき音楽はたくさんある。あれは良かったがこれは良くない、という感じかもしれないし、あるいはこれから出てくる作品が気に入るかもしれない。だからといって僕は止める訳にはいかない。自分に向いているからだ。そうでなければ楽曲ではなく、数式や製品を作っているのと同じだ。それではつまらない。

自分の意見に同調して欲しいとは思っていない。それがこれまでのやり方だ。アルバムを何枚か出してキャリアを積んできたとしても、今いる全てのファンが全部の作品を聴いているとは限らない。8枚目か9枚目から聴き始めたファンもいるだろうし、年齢によっては今回が初めてというファンもいる。

「今回のアルバムがベストではないよ。君はこっちのアルバムをまだ聴いたことがないだろう」と誰かに言われたのがきっかけになるかもしれない。もちろん勧められたアルバムは聴いたことがない。まだ生まれる前の作品かもしれないし、自分がまだ小学生だったかもしれない。僕にも経験がある。ある曲の良さがわかるまでに、長い時間がかかることもある。幼い頃は、父親がトランペットを吹いていたから、周囲の人々はビーバップを好んで聴いていた。皆が楽器を演奏できるようになる頃、僕はまだ小さな子どもだった。アルバムを聴いても何がどうなっているか理解できなかった。

その後それらのアルバムの良さがわかるぐらいに成長すると、別のものが見えてきた。素晴らしいことだった。あらゆる音楽が自分を導いてくれた。あらゆるジャンルから少しずつスキルを集められる。音楽で表現したかったので、まず知っておくべきことや編曲方法を学んだ。今回のアルバムでは、正確に言えば、それらの才能や能力は必要なかった。ミュージシャンたちには、こんな雰囲気でテンポはこの位でやってみよう、と伝えるだけでよかった。

Translation by Smokva Tokyo

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