ローリングストーン誌が選ぶ、2020年の年間ベスト・ムービー20選

5位『バクラウ 地図から消された村

Photo : Kino Larber


ブラジルのプロデューサー、ジュリアーノ・ドルネレスとクレベール・メンドンサ・フィリオ監督が放つ、はやくも現代のアートハウス系映画の名作と目されるウエスタン/ホラー/バイオレンス映画『バクラウ 地図から消された村』は、文字通り地図から抹消されたバクラウという田舎の村の善良な(そして善良とは言えない)住民たちを描いた作品だ。バクラウは、ほぼ一夜のうちにインターネットの地図上から姿を消した。どうやら、人間を獲物に見立ててスポーツハンティングを楽しもうと高いカネを払う観光客に地元の政治家が住民を売り渡したようだ。だがこの獲物は、反撃者としての長い歴史を持っている。富める者がますます富み、貧しき者が真実を知る様子を描いた米作家リチャード・コネルの短編小説『The Most Dangerous Game』にマイナーチェンジを加えたようなこの暴力的なネオ・エクスプロイテーション映画ほど、武器を取れ! と人々に呼びかけるカタルシス的な作品は存在しない。鋸歯状のエッジと血で血を洗う暴力を大量に投入した風刺の結果が『バクラウ 地図から消された村』なのだ。帝国主義、資本主義、醜いアメリカ人、主演者のひとりである俳優ウド・キアに対する人々の怒りが頂点に達し、これらすべてを拒絶する時の怒りが描かれている。おまけに同作には、カッとなりやすくもチェ・ゲバラのハートを持つ村のドクター役として名女優ソニア・ブラガも出演している。(日本公開:11月28日より公開中)



4位『ファースト・カウ』

Photo : Allyson Riggs/A24

アメリカに移植した白人が北米全土を開拓するのは天から与えられた宿命である、と説く自明の宿命説をDマイナー調で描いた、ケリー・ライヒャルト監督の物悲しく陰鬱なウエスタン映画『ファースト・カウ』は、“クッキー”という名の料理人(ジョン・マガロ)が中国系移民のキング・リュ(オリオン・リー)とタッグを組んでビジネスを始めるというストーリーだ。クッキーが作る“オイリーケーキ”は天下一品だと、その評判は何マイル先にも知れ渡っている一方、リュはふるさとの味が恋しくてたまらない、腹を空かした金探鉱者や毛皮商人たちに売り込む方法を心得ている。『ファースト・カウ』は、アメリカの辺境が舞台の資本主義のサクセスストーリーではあるが、クッキーとリュのビジネスは覇気のない英国人(トビー・ジョーンズ)が所有する牝牛から盗んだミルクのおかげで成り立っている。ライヒャルト監督が描くアメリカの過渡期は、うわべの極上の美しさ、控えめさ、繊細さゆえに、観る人は、ストーリーに潜む少年ダビデ対巨人ゴリアテというディスラプティブな構図を見逃してしまうかもしれない。企業国家アメリカがすでに噴き出そうとしているのだ。弱者にチャンスなんてない。「ここにはまだ歴史はないけれど、やがてはつくられる」とリュは言い張る。「その時は、僕らも準備ができているかもしれない」。もし歴史が何かを証明したとしたら、それは、たとえ水平線上にそれがちらりと見えたとしても、私たちは決して準備などできないということだ。(日本公開:未定)



3位『American Utopia』

Photo : David Lee/HBO


デヴィッド・バーンの大ヒットミュージカル『American Utopia』は、2019年11月から2020年2月にかけてブロードウェイで上演された。生で舞台を観られなかった人も、心配しないでほしい。そんな人たちのために、スパイク・リー監督が同作を映画化したのだから。そしてトーキング・ヘッズのライブ映画『ストップ・メイキング・センス』(1984)を手がけたジョナサン・デミ監督同様、リー監督はトーキング・ヘッズの元フロントマンと一緒に仕事をするチャンスを“再生”ボタンだけを押すドキュメンタリーとしてではなく、アーティスティックなコラボレーションとして活用した。上下左右はもちろん、バックステージをはじめ、ハドソン・シアターのトイレを除くすべての場所に設置されたカメラの映像で映画の幕を開けるリー監督は、シンガーやステージ上のグレースーツ姿のパフォーマー、あるいは彼らを取り巻く視覚的なスライドショーといったこのプロダクションの一部でもある(バーン&Coによるジャネール・モネイの「Hell You Talmbout」のカバーを強調することでリー監督は、すでに見事な同作にさらなるパンチを効かせている)。リー監督の『American Utopia』がオリジナルのブロードウェイ作品の親密さを維持している点は、監督の手腕とクリエイターによる手堅いハイ・コンセプトなステージプレゼンテーションを証明している。バーンと多文化クルーが賑やかなマーチングバンド・バージョンの「Burning Down the House」を披露する姿は——彼らが見せた目がくらむような連帯感は、まさにいまの時代に必要とされているものだ——観る人を号泣させるのに十分だ。今年、映画館で2番目に楽しい時間を筆者に与えてくれた『American Utopia』は、正典と呼ぶにふさわしい作品である。(日本公開:未定)



2位『Lover’s Rock(原題)』

Photo : Parisa Taghizedeh/Amazon Studios

今年、映画館でもっとも楽しい時間を筆者に与えてくれた作品を紹介しよう。その作品とは、1960年代後半から80年代初頭のロンドンの黒人たちの生活と西インド系移民コミュニティを描いた5作品から成るスティーブ・マックイーン監督の野心的な「Small Axe(原題)」だ(これはアンソロジーシリーズ? それとも長編作品が織りなす組曲? あるいはデザートのトッピング的なものなのだろうか? この点については、ぜひ延々と議論していただきたい)。同シリーズを構成している各章は、レストランのオーナーと顧客に対する警官の暴力(『Mangrove(原題)』)からサッチャー政権下のパブリック・スクール制度に対する激しい批判(『Education(原題)』)にいたるまで、さまざまなテーマを取り扱っている。だが、その中でも傑出しているのが“ブルース”パーティを描いた2番目の作品『Lover’s Rock(原題)』だ。劇中では、ウエスト・ロンドンのアパートの室内でブースを設置するDJやジャマイカ料理を作る女たちが映し出される。そこでは、マーサ(アマラ・ジェセント・オービン)が窓から抜け出して女友達と落ち合ってパーティの準備をしたり、フランクリン(マイケル・ワード)という青年がパーティに来たマーサとちょっとしたおしゃべりをしていちゃついたりし、労働者や未来のカサノヴァたちがレゲエの調べに合わせて踊りだす。そこにジャネット・ケイの「Silly Games」がかかると、マーサとフランクリンは他の十数組のカップル同様、ゆったりと踊りながら一緒に歌う(ここでオーディエンスの脳内にエンドルフィンが大量に放出される)。マックイーン監督が贈る、喜びと感動に満ちたこの傑作は、ムードを演出したり、過ぎ去った瞬間を思い出させたりする点では右に出るものはなく、ひとえに卓越した方法で音と視覚を使っている。混み合ったダンスフロアに自分もいて、そこにいる人たちと一緒に汗を描きながら体を揺らしたり、飛び跳ねたり、すべてのことを忘れてコミュニティのグルーヴを体感しているかのような感覚にしてくれるのだ。

1位『Colectiv(英題:Collective)』
Photo : Magnolia/Participant

2015年3月15日、ルーマニアの首都ブカレストのColectivというナイトクラブで火災が発生し、27人が死亡、180人が負傷した。この火災をきっかけに国民の怒りが噴出してデモが実施され、政権交代が行われた。その後、病院で怪我から徐々に回復していたナイトクラブのパトロンの数人が死亡したという知らせがスポーツ紙のジャーナリストの耳に届く。ジャーナリストと彼の調査報道記者のチームが事件をもう少し掘り下げようと決意するや否や、権力、腐敗、嘘、さらにはマフィアをめぐる巨大なスキャンダルの存在が浮き彫りになる。2000年代後半から注目されるようになったルーマニア映画のニューウェーブを追ってきた映画ファンにとって、アレクサンダー・ナナウ監督のドキュメンタリー『Colectiv(英題:Collective)』は、フィクションを題材とした人間ドラマや希望のないブラックコメディに事欠かないルーマニア映画のお供にうってつけのノンフィクション作品だ。そうでない人たちには、政権腐敗が暴かれていくプロセスを描いた同作は、会議室のテーブルを囲んでの緊張感に満ちた会話、パソコン画面にかじりつく記者たち、もっと説得力のある記事にしろ! とデスクの向こうから命令する編集者といった光景が繰り広げられる『大統領の陰謀』(1976)や『スポットライト 世紀のスクープ』(2015)などの作品のドキュメンタリー版と言えるだろう。

『Colectiv』は、あなたが同作をいつ観たかにかかわらず、素晴らしい作品である(昨年、映画祭で上映されたことを機に早い段階から口コミで話題になり、最終的に配給が決まった)。だが、2020年のこの時期に同作を観るのは、もっとも深遠な方法で世界を振り返ることでもある。同作は、危機的状況下で国民に手を差し伸べられない国のストーリーであり、懐を豊かにすることと権力にしがみつくことを優先する政府の寓話である。人々の敵と見なされるのではなく、賞賛されたジャーナリズムのストーリーでもある。さらに同作は、エンディングで“Collective(集団)”というタイトルがまったく別の意味を持つ作品でもある。何かを成し遂げるには、人々が団結しないといけないということを同作は思い出させてくれる。まさに数は力なのだ。

>>関連記事:ローリングストーン誌が選ぶ「2019年ベスト・ムービー」トップ10

Translated by Shoko Natori

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE