ポール・マッカートニー×テイラー・スウィフト対談「誰かをそっと支えるような曲を書きたい」

「悲しみ」は「温もり」にもなり得る

テイラー:歌詞についても訊いてみたかったんです。今みたいな未曾有の非常事態の中で作品を作る上で、まず歌詞が出来上がることってありました? それともメロディが先ですか?

ポール:両方同時に浮かぶ場合が多いかな。いつもそうなんだけど、決まったパターンがないんだ。僕とジョンは「2人のどちらが作詞担当で、どちらが作曲を担当しているのですか?」ってしょっちゅう訊かれてたけど、僕はいつも「2人ともどちらもやる」って答えてた。僕らに決まったやり方はないし、それを求めていないってことをよく口にしてたよ。フォーミュラっていうのは、確立した瞬間に放棄するべきなんだ。

今回のアルバムでも、そんな風にして生まれた曲がいくつかあった。深く考えずにピアノを弾いていると、ちょっとしたアイデアが浮かび、それが次第に膨らんでいった。そうすると、歌詞が自然に浮かんでくるんだ。(『マッカートニーIII』の「ファインド・マイ・ウェイ」のメロディーを口ずさみながら)「進むべき道は自分で見つける。意識ははっきりしてるんだ」っていう風にね。自分がその曲のことを既に知っていて、歌詞を思い出そうとするような感じ。周囲のちょっとしたことがヒントになる場合もあるよ。正座や惑星、金星の軌道なんかについて書いた本があって……

テイラー:その曲って「ザ・キス・オブ・ヴィーナス」ですよね。

ポール:そうだよ。「ザ・キス・オブ・ヴィーナス」っていうフレーズがすごく気に入ったんだ。あの曲はその本に載ってた、そのフレーズの響きから生まれたんだ。宇宙の構造についての本なんだけど、各惑星の軌道とか、すべてのパターンをトレースすると睡蓮の花のような形になるんだ。

テイラー:ワオ。

ポール:神秘的だよね。



テイラー:本当にそうですね。今は暗い話題ばかりだからこそ、余計にそういう不思議なものを求める気持ちが強くて。私は裁縫の教本を読んだり、何百年も前の出来事についての映画を観たりすることで、そういう刺激を得ているんです。最近はパニックを誘発しそうなニュースばかりだから、惑星や星座に惹かれる気持ちはよくわかります。

ポール:『フォークロア』を作っている時もそんな風に感じてた?

テイラー:そうですね。かつてないペースで本を読んでいたし、映画もたくさん観ました。

ポール:どんな本を読んでいたの?

テイラー:ダフニ・デュ・モーリエの『レベッカ』とか。あれはすごくお勧めです。他には過去、つまり今はもう存在しない世界のことを描いた本をたくさん読みました。あのアルバムの曲では「悟り」(epiphany)とか、そういう以前から使ってみたかった壮大で華やかで魅力的な言葉を積極的に使いました。以前は「これはポップスのラジオ向きじゃない」みたいなことをいつも考えていたんですが、今回のアルバムを作りながらこう思ったんです。「一体何を気にしてたんだろう。もはや何もかもがカオスなら、使いたい言葉を迷わず使うべきだ」って。

ポール:その通りだね。君も本で目にした言葉に感化されることがある?

テイラー:そうですね、好きな言葉はたくさんあります。「挽歌」(elegies)とか「顕現」(epiphany)、それに「離婚した女」(Divorcée)とか。響きが気に入った言葉に出会うたびに、ノートにリストアップしてるんです。

ポール:「マジパン」っていうのはどう?

テイラー:すごくいいと思います。


ポール・マッカートニーとテイラー・スウィフト 2020年10月6日にロンドンで撮影。撮影: メアリー・マッカートニー、スウィフト着用のセータードレスデザイン: ステラ・マッカートニー

ポール:ついこないだ、「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」で「カレイドスコープ」っていう言葉を使ったことを思い出したんだ。

テイラー:私もその言葉は大好きです! 『1989』の「ウェルカム・トゥ・ニューヨーク」っていう曲で使いました。「カレイドスコープ」っていう響きがとにかく好きで。

ポール:好きな言葉があるっていうのは、歌詞を書く人にとってはすごく大切なことだよね。誰かが誰かに向けた言葉、僕にとって歌詞はそういうものなんだ。僕はよく、元気がない誰かのために曲を書いているように感じる。きれいごとを並べたり、革命を訴えたりするんじゃなく、誰かをそっと支えるような曲を書きたい。これまでの人生で、僕自身が何度も音楽に救われてきたからね。それが僕のスタンスであり、インスピレーションなんだ。

10代の頃、リヴァプール時代の友達と移動式遊園地に遊びに行った時のことを思い出すよ。学校の友達で、2人とも当時流行ってた小さな斑点模様のジャケットを着てた。

テイラー:今回の撮影で、私たちもお揃いの服を着ればよかったですね。

ポール:ああいう生地の服を見つけてくれたら、喜んで応じるよ。それで、リヴァプールのセフトン・パークっていうところに来てた移動式遊園地に2人で遊びに行ったんだけど、そこにものすごく綺麗な女の子がいたんだ。有名人とかじゃないけど、とにかく美しかった。その場にいた誰もが彼女に目を奪われてて、夢の中の出来事のようだった。でも僕が頭痛を覚え始めたから、彼の家に行くことにした。頭痛なんて滅多に経験したことがなかったんだけどね。何をすべきかわからなかったから、とりあえずエルヴィスの「恋にしびれて」をかけたんだけど、曲が終わる頃には頭痛はすっかり収まってた。僕はあの時、音楽の持つ力を知ったんだよ。

テイラー:すごくパワフルなエピソードですね。

ポール:見知らぬ人に呼び止められて「病気で苦しんでいた時、あなたの音楽をたくさん聴いて元気づけてもらいました。おかげで今はすっかり元気です」なんて言ってもらえると、やっぱり嬉しいからね。あるいは子どもたちから「試験勉強の時に慰めてもらいました」って言ってもらえたり。ずっと机に向かって勉強してると気が滅入るから、音楽をかけたりするじゃない? 君のファンもたくさん、同じような経験をしているはずさ。それって、彼らをインスパイアしたってことなんだよ。

テイラー:私もそういうことを目標にしているつもりです。皆いろいろな形でストレスを感じているから、そういう人たちをそっと抱きしめるようなアルバムを作りたかった。すごく温かい、お気に入りのセーターのような。

ポール:「カーディガン」じゃなくて?

テイラー:そうですね、着込んだ上質なカーディガンのようなもの。あるいは、幼い頃の思い出を喚起するような何か。悲しみって、温もりになり得ると思うんです。もちろんトラウマやストレスになることだってあるけど、私はそういうのとは異なるベクトルの悲しみを描こうとしていたんです。ノスタルジアや、落ち込んでいる時にとる自己防衛のような。今はきっと誰もが、多かれ少なかれ辛い思いをしているはずだから。孤立って、自分のポジティブな想像の世界に逃避する機会になると思うんです。

Translated by Masaaki Yoshida

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