豊原功補が語る、新しいことへの挑戦と大きな可能性

再び笑う豊原の表情は、まるで少年のよう。実は映画『ソワレ』もまた、若い男女のストーリーだ。東京で役者を目指す翔太(村上虹郎)は、理想と現実のギャップに自分を見失いそうな日々を送っていた。そんな中、小さな劇団と共に彼が向かった先は、故郷である和歌山の老人養護施設。演劇を通したレクリエーションを老人たちと行うためだ。そこには自分と変わらぬ年代のタカラ(芋生悠)が働いていたが、彼女もまた何かを失い諦めたような表情を浮かべていた。数日後、一緒に祭りに行こうと誘ったタカラを迎えにいった翔太は、そこで驚くべき光景を目にしたあとは「ある事件」を起こしてしまう。そして2人は「駆け落ち」とも呼べる逃避行の旅を始めることになった……。

「自分は何者であって、どこへ向かうべきなのか。若い頃は、誰もがそうした焦燥感に駆られる時期があると思うんです。今は情報があまりにもあふれ過ぎているから、『夢に向かって走る』『世界を変えたい』なんて考えにくいと思うんですけど、それでも鬱屈した気持ちを抱えてアンビバレンツな状態に陥ってしまう気持ちは、いつの時代も同じだろうと思う。なので、大人の方にも、現代の若い世代にも是非とも観てほしい映画です。『自分と同じような思いを抱え、もがいている』と思ってもらえるのではないかと。そして、前に向かって進んでいくことが、いかに大事なのかを感じ取ってもらえたら本当にうれしいですね」

また、映画を製作していくなか豊原があらためて感じたのは、硬直し切ってしまった日本映画界の現状だったという。

「おそらく、これまでが上手くいき過ぎていた部分があるのだと思います。国内のお客さんに向けて作った映画を、日本国内でペイしていくというシステムに終結してしまう。実は若い世代にも上の世代にも、斬新な発想を持った方たちはたくさんいるはず。しかしリスクを嫌うから独自性が育たない。国自体も文化の育成にあまり熱心とは思えない。もちろん、そこで成り立つ世界が間違っているのか?と聞かれたら、そうとも言い切れない。関わる一人一人に生活があって、商業としての構築は出来ていますからね。ただ、それだけだと単純に広がっていかないんですよ。今やネットでも個人単位で世界に発信ができる時代。『どうして国内のみの視点でやっているんだろう?』と疑問を持ち始める人が増えてきているのは必然だと思います。そんな、今の日本映画界に悶々とした気持ちを抱えている俳優や裏方さんたちに、僕らの活動が一つの石になってくれたらと。既存のものをぶち壊すというより、新たな意識が点と点とで繋がって場所を作り、両方で共存しながら日本映画界全体が大きくなっていったら最高じゃないのかな。時間がかかるかもしれないけど」


Photo = Mitsuru Nishimura

既存のシステムを破壊するというより、「新たな選択肢」を提示するという豊原のオルタナティブな考え方は、10代の頃からエンタメの世界で生きてきたからこそ育まれてきたものなのかも知れない。今後の展望について最後に尋ねると、力強い言葉が返ってきた。

「発想が豊かでありたい。とにかく作るしかない。日本映画はアジアでも世界でももっとたくさん通用できる力があるはず。今現在でもすでに広い視野と考えを持って行動している素晴らしい監督や下の世代の俳優、クリエイターは間違いなくいます。観客も分かっていることだと思います。映画界ではないけど、演芸好きとしては講談で六代目襲名した神田伯山みたいな人も刺激になります(笑)。挫けないよう、志を失くさずにいたいと思います」




映画『ソワレ』

配給:東京テアトル

オンライン上映中 (レンタル配信)
配信期間:2020年11月21日(土) ~ 2021年1月11日(月)
https://soiree-movie.jp/site/dvd/

出演情報:
映画『ヤクザと家族』
2021年1月29日公開
https://yakuzatokazoku.com

BSスカパー✕衛星劇場
どっぷり副音声
『芝居噺弐席目「後家安とその妹」』
2021年2月放送予定

https://www.skyperfectv.co.jp/special/promo/doppuku/


豊原功補
1965年9月25日生まれ、東京都出身。A型。16歳で芸能デビュー。代表作は、NHK大河ドラマ『平清盛』、映画『南極料理人』など。2007年に公開された映画『受験のシンデレラ』で、『モナコ国際映画祭』最優秀主演男優賞を受賞するなど、話題の作品に数多く出演。近年は、舞台の脚本・演出なども手掛けている。

Photo = Mitsuru Nishimura

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