Reiと考える、この時代にアイデンティティの窮屈さを乗り越える方法

自分の弱さと向き合うことができた

―「MG」(東京ニュース通信社)に掲載されているReiさんのインタビューを拝見したんですけど、春頃のステイホーム期間中は、自分の鏡に布をかけて暮らしていたくらい、自分のことが嫌になっていたそうですね。

Rei:鏡に布をかけて生きるっていうのは、まさに自分というアイデンティティから逃げている状態ですよね(笑)。フィックスされている個性に嫌気がさしたのが、その頃の状態でした。

―そのときの思考回路から、どうやって抜け出せたんですか?

Rei:私はもともと自尊心がすごく低いタイプで。自分自身に対してもそうだし、世の中に対しても、嫌悪感や憤りがすごく大きい人なんですよね。そういう自分にとって音楽というのは、逃避なんです。音楽を聴くことも作ることも、そこから逃れるためのものという部分がずっとあって。なので、どういうふうに解決したかと言うと……解決はしないんだけど、今抱いてる負の感情とかも音楽にしたら、少し解消するところがありました。

―そういう負の感情って、Reiさんにとってずっと付き合って生きていくものだなって思いますか。

Rei:いつか自分のことがとっても好きだよって言える日が来たらいいなと思って、旅をずっと続けている感じです。その旅を続けていく中で、私が紡ぐ言葉やメロディーが、自信のないどこかの誰かに届いてその人が自分のことを認めてあげるきっかけになればいいなとも思います。


Photo by Masato Yokoyama

―今の世の中は、生まれ持ったアイデンティティで不平等な扱いを受ける場面もまだまだあるけれど、歴史を振り返って考えると個人が自由な選択をできる場面は確実に増えていて。その両面がある中で、「自分らしく生きていこう」という言葉はときに暴力的にもなるからこそ、表現者にとっては決して安易に扱えるものではないと思うけれど、このアルバムではそれがReiさんの実体験も含めてとても丁寧に紡がれていると感じました。

Rei:「あなたらしく」というテーマで歌われてる曲って、世の中にごまんとあると思うんです。その中で私が「あなたらしく」について歌うとなったときに、どういうアプローチでリスナーに問いかければいいだろうっていうのを考えて書いたのが1曲目の「B.U.」です。私が歌い手としてリスナーに対して優位に立ちたくないという気持ちは強くあって、目線を同じにして歌いたいとすごく思っていました。それで淡々と言葉を連ねるような歌詞の書き方をしたり、自分が気持ちよく幸せになれるきっかけになるのであれば「人を模倣することさえもあなたらしさなんじゃないか」ということも意識して書きました。そういうことも含めて「あなたらしく」を描けたらいいなって。今回のアルバムで、私自身も変われたなと思っています。

ーそれは、どういうところが?

Rei:自分の弱さを少し認めてあげることができました。それによってリスナーとの距離が縮まればいいなと思ってます。


Photo by Masato Yokoyama

―1stミニアルバム「BLU」からの約6年を振り返ると、自分が完璧であるように見せたり、背伸びして振る舞ってたりしたところがあったなと思いますか。

Rei:強いのも自分の側面のひとつだと思うんです。英語と日本語の歌詞を混ぜていることとか、日本語の歌詞の上でも強い人物像を描いていたのは、聴いてる人に元気を出してほしいっていうのもあるし、英語で歌うことで日本語がネイティブなリスナーにとっては想像力を掻き立てるという意図もありました。でも今回は、先ほども言ったように距離を縮めたいし、よりリアリティを持たせたいというのがあったので、私の強い姿を見せて元気を出してもらうというよりは、私が弱っていたり傷ついていたりしてる場面を見てもらうことで逆に元気を出してもらえたらなって。辿り着きたいのは「リスナーに笑ってほしい」というところなんですけど、表現方法を変えてみたのが今作です。

ー今作がまるで日記のようにパーソナルな内容で、自分の弱さも見せた作り方になっているのは、たとえばアデルやアリアナ・グランデなど世界的なポップスターたちが自身のパーソナルな出来事や心情をアルバムにして、それを世界中の人が聴いてる状況がある中で、そういった作品や表現こそが受け手に響くんじゃないかというマインドあったからか、それともReiさん自身の心情や人生の変化でこういった音楽を作らざるを得ない状況になっていたのか、どちらが要因だと言えますか。

Rei:両方です。私がすごく感動した作品で、そういうものが多かったというのもあります。ジェフ・バックリィの『Grace』 、ジャコ・パストリアスのセルフタイトル作、最近だとブリタニー・ハワードの『Jaime』やレディ・ガガの『Joanne』もそうですし。心の内を開いてくれることによって、こちらも耳や心を開きたくなるということはリスナーとして思っていたので、そういう作品を作ってみたいという気持ちもありました。

もうひとつは、自分の作品で表現している感情の色数をより増やしたいなという思いがありました。仮にこれまでは喜怒哀楽の4色で作っていたとしたら、それをぐんと増やして30色ぐらいの感情を描けたらいいなっていうふうに思っていて。それらの細かい感情は自分の中で存在していたけど、十分な解像度で表現しきれていなかったのかなというふうに思ったので、自分の中にある幾千もの感情をちゃんと言葉やサウンドに落とし込んでリスナーに伝えられるように、という願いがあったのも理由のひとつだと思います。

―でも、ミュージシャンとして音楽を作る上での意識を変えただけでなく、Reiというひとりの人間としても変化があったからだとも言える?

Rei:そうですね。制作スタッフが、私のフラジャイルで繊細で敏感で傷つきやすくて、コンプレックスも多い部分を受け入れてくれて、しかも完璧主義者すぎてレコーディングが進まない場面もたくさんあったんですけど、ちゃんと大きい器で受け止めてくれたんです。それはすごくありがたかったし、もしかしたらそういった経験も含めて作品性に表れたのかなと思います。そういった経験を自分がすると、逆に親しい人に対して両手を広げて受け止めてあげたいなっていう気持ちにもなりますし。受け止めてもらったから、私も受け止めてあげたい、というふうに思いながら書きました。


Photo by Masato Yokoyama

ー最後に、アルバムに入ってる唯一歌詞がない曲「Broken Compass」について、セルフライナーノーツでは「新しい世界の中で進むべき方角を見失い、迷ったり、震えたりする針の様子を音に落とし込みました。途中で拍子が変わることは、世界の仕組みが変わる瞬間をあらわしていて、必ずしも変化は悪いことではないことを物語っています」と書かれています。Reiさんとしては、この2020年という年の出来事を境に、どういう変化があればいいなと思いますか。

Rei:……私が行くコンビニには必ず男梅グミを置いてほしい(笑)。

―今日ここまですごく真面目な話をしてもらったのに……もう、原稿の締めとして最高じゃないですか(笑)。

Rei:男梅グミ、好きなんです。レコーディングで男梅グミとコカ・コーラ ゼロを持って入らないと、歌録りのクオリティが低いんですよ。ぜひ食べてみてください(笑)。


Photo by Masato Yokoyama




Rei
『HONEY』
発売中
https://jazz.lnk.to/Rei_HONEYPR


Rei Release Tour 2021 “SOUNDS of HONEY”
※名古屋・大阪公演はミニマムセットでの「the Lonely Set」、東京公演はスペシャルバンド編成による「the Band Set」での出演
※東京公演のみオンライン配信あり・詳細後日

2021年1月30日(土)
愛知県・THE BOTTOM LINE
1st 公演 14:15 open / 15:00 start
2nd 公演 17:45 open / 18:30 start
1st:https://bit.ly/3l4H7cA
2nd:https://bit.ly/2JexlHF

2021年2月7日(日)
大阪府・BIGCAT
1st 公演 13:15 open / 14:00 start
2nd 公演 16:45 open / 17:30 start
https://www.sound-c.co.jp/schedule/detail/5447/

2021年2月14日(日)
東京都・EX THEATER ROPPONGI
開場 17:00
開演 18:00
https://www.red-hot.ne.jp/play/detail.php?pid=py20763

Rei公式サイト:https://guitarei.com/

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