DAWと人による奇跡的なアンサンブル 鳥居真道が徹底考察

とにかくこうした細かい調整を重ねに重ね、ドラムのトラックを完成させました。そこにベースが加わると、また聴こえ方が変わってしまい、今度はベースをバラバラに分解して、ドラムのほうも調整し直して……という具合に作業が増えていったのでした。詰めれば詰めるほど良くなるし、こうすればうまくいくという方法論も出来上がってくるし、さらには、耳も研ぎ澄まされていくので、どんどん沼にはまり込んでしまいました。結果的に40時間ぐらいかかりました。

一音一音、自分の思い通りに位置を動かせるので、コントロールフリーク的な欲望は満たされます。圧倒的な「神」感すらありました。一方で、私たちの生きている世界はこれほどまでに思い通りにはいかない。だから、こんなものは現実逃避に過ぎないのではないか、という心境になりました。

こうした作業を経た耳でトーキング・ヘッズの「Once in a Lifetime」に登場するタムを聴くと、「本当にそこで良かったの?」と問い詰めたくなってしまいます。おそらくこのタムは後からダビングされたものだと思われますが、それにしても後ろすぎるだろ、と。『Remain in Light』のレコーディングに口を出せる立場であれば、不遜にもやり直しを迫っていたことでしょう。けれども、同時に、このタムのズレこそが曲のフックでもあるように思ったりもします。



多少のリズムのズレがフックになったり、バンドのアンサンブルを固有のものにしたりするものです。たとえば、ローリング・ストーンズのアンサンブルなどはほとんど奇跡的なバランスで出来上がっています。他方、リズムのズレがその音楽の心地良さやかっこよさを損なってしまう場合は決して少なくありません。だから、ズレが良いものなのか悪いものなのか一概に決断できるものではありません。

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