YOASOBIが語る、影響を受けた10冊の本

「自分の曲を誰かに聴かせる行為は、自分の中の価値観をどれだけうまくプレゼンできるかだと思う」(Ayase)

ーikuraさんが選んだオスカー・ワイルドの『しあわせの王子』も、童話というフォーマットを用いて人間の本質を描き出していますよね。街に建つ王子さまの銅像が、渡り鳥のツバメの協力のもと困窮する住民たちに、少しずつ自分の体の一部であるサファイアやルビー、金箔などを分け与え、最終的にはボロボロになって打ち捨てられてしまう悲しいストーリーです。

ikura でも、その悲しみの中に学ぶことがたくさんあるような気がしていて。最終的には報われなくても、王子さまもツバメも貧しい人たちを救うことが出来た。自分たちの責務を全うして幸せだったのかなと。

『しあわせの王子』
著:オスカー・ワイルド 文絵:いもとようこ

ー「幸せのカタチ」って、見る角度によって違うこともありますよね。他人から見たら惨めなようでも本人たちにとっては幸せなこともあるし、自己犠牲の美しさみたいなものもこの作品は教えてくれる。

ikura そうなんです。タイトルの「しあわせの王子」の意味も、そこにある気がします。しあわせの本当の意味を考えさせてくれる素敵な作品ですし、そういう複雑な物語を幼い頃に読んだことは、自分の中にとても大きな影響を及ぼしていると思いますね。

『ギャグ漫画日和』
著:増田こうすけ

ー増田こうすけ先生の『ギャグ漫画日和』は、先の2作とは趣が全く違いますね。

Ayase 言わずと知れたギャグ漫画の名作です。いつどんなペースで読んでも得られるスピード感を、文字と絵だけで表現していることがまず信じられないし、ぶっ飛んでいる発想を「漫画」というフォーマットに落とし込んで、ちゃんと「面白い」と思わせるのは本当に凄いことだと思います。

ーちょっと曲作りにも似ていませんか。テンポや楽器の間合いでスピード感をコントロールしたり、ユーモアのセンスを散りばめながら、実験的な発想をポップに聴かせることが大事だったり。

Ayase まさにそうですね。自分の曲を誰かに聴かせる行為は、自分の中の価値観をどれだけうまくプレゼンできるかだと思うんですよ。例えば歌詞を書く時、自分の思いをいかに分かりやすく伝えるかは大事ですけど、分かりやすすぎる言葉を使って説明するのは詩的ではない。どんなフレーズや比喩を使うかが重要じゃないですか。以前の僕は、「分かる人にだけ分かればいい」なんて考えていたのですけど、本当にいいものは誰にでも分かってもらえるものだと思うし、分かってもらえないのなら、その理由を考えるべきだと気づいたんです。自分の感性をどれだけ分かりやすいフォーマットに乗せられるか、その努力はアーティストとして必要なことだなと。そういう意味では、この『ギャグ漫画日和』の発想には少なからず影響を受けていますね。

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