TikTokで曲の未来を占うラッパーたち「限られたリソースをムダにしたくない」

TikTokを主戦場とするアーティストの多くは「リアルタイムの世界に生きている」

曲の発表前にオーディエンスの反応を見るというやり方は、決して目新しいものではない。ハウスのプロデューサーたちにとっては、発売前のレコードを現場でプレイし、フロアのダンサーたちの反応という貴重なフィードバックに基づいて、曲に修正を加えたりミックスをやり直したりすることは定石となっている。しかしこれまでは、ラジオDJやレーベルのA&Rに聴かせたり、バーの客を楽しませるためには、アーティストの大半は楽曲を完成に近い段階まで仕上げておく必要があった。あるバンドがライブの場で未完成の曲を15秒だけ披露すれば、多くのオーディエンスは困惑したはずだ。

TikTokのようなアプリを使うことで、ユーザーは曲の起源に近い部分に触れることができる。アーティストの中には、曲が生まれていく過程をフォロワーに見せようとする者もいる。Sara KaysやAnson Seabra等が制作途中の曲を公開しているのは、一定の期間の中で曲が形になっていくさまを見せることで、リスナーに曲に思い入れを抱いてもらおうという狙いがある。

またオーディエンスにA&Rの役割を担わせたり、さらにはユーザーとのコラボレーションで曲を作るなど、より大胆な使い方をしているアーティストもいる。TikTokで15秒間のフリースタイルを公開し、反響のあったものを曲に発展させているChampionxiiiもその1人だ。彼の「Peekaboo (I Just Snapped) 」でコラボレートしたYoung Fanaticも似たアプローチをとっており、InstagramとYouTubeで楽曲の「ワークショップ」を実施している。昨年前半に「Time Flies」という曲を公開したDempsey Hopeは、どういったリリックを乗せるべきかオーディエンスに意見を求めた。完成形をリリースする前に無数のバリエーションをTikTokで公開するという彼のやり方は、まるでMad Libs(アメリカ発祥の言葉遊びゲーム)のソングライティング版だ(Hopeはその後RCAと契約した)。

@dempseyhope

comment some years?

♬ original sound - Dempsey Hope


こういったアプローチを実践するアーティストたちは、それによってかつてなくフレキシブルな活動が可能だと主張する。「(以前は)レコード会社がプランを立て、何か変更があればそれに順応しようとするという段取りだった。(シングル曲の)リリースプランは約1年から1年半に及ぶ」。バウワーズはそう説明する。「そういう古いモデルは巨大で鈍く、リアルタイムのフィードバックは皆無だ。多くの資金を投入したマーケティングプランに何かしらの支障が発生したとしても、代替策は用意されていない」

それとは対照的に、TikTokを主戦場とするアーティストの多くは「リアルタイムの世界に生きている」ため、軌道を容易に修正することが可能だとバウワーズは話す。レーベルが同プラットフォーム向けでない楽曲に資金をつぎ込むのは、丸い穴に四角のボルトを入れようとするようなものだ。Championxiiiはそういう落とし穴を回避するために、穴の形状に応じてボルトを変更するという、はるかに経済的なマーケティングアプローチを実践している。

「こういうレコードのプロモーションには金がかからない」。そう話すのは、Sony Orchardのパートナーレーベルであり、Championxiiiと契約したBlack 17の共同設立者であるTyler Blatchleyだ。「当たるものは当たるし、外れるものは外れる。彼がTikTokでシェアしたものの中で何かがバズれば、そこに何千ドルがつぎ込んで勢いをつけてやればいい」。Blatchleyによると、その戦略から生まれた「Becky」や「Splash」、そして「BOO!」等のミニチュアヒットの数々は、アーティストに「まとまった額の金」をもたらしたという。

「BOO!」はこれまでに、TikTokで220万点以上のムービーに使用されており、同曲の成功に後押しされる形で、Championxiiiの過去の楽曲もアメリカで1週間のうちに100万回以上ストリーミング再生された。「俺は滑り知らずのヒットメーカーだと思われてるかもしれない」。Championxiiiは上機嫌でそう話す。「事実そうだけどね。何がヒットするのかを、俺はオーディエンスから教えてもらってるんだから」

【関連記事】18歳の日本人ラッパー、LEXが語る「リアルタイム」な作品

from Rolling Stone US

Translated by Masaaki Yoshida

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE