ローリングストーン誌が選ぶ、2020年の年間ベスト・ホラー・ムービー10選

5位『Swallow/スワロウ

Photo : IFC Films

家庭が舞台のホラー映画に女性のエンパワーメントを描いた不気味なストーリーが盛り込まれた(あるいはその逆?)『Swallow/スワロウ』。脚本家・監督のカーロ・ミラベラ=デイヴィスによる同作は、“完璧な”妻ハンター・コンラッド(ヘイリー・ベネット)が壊れていく様子を描いた不穏な作品だ。おとなしいハンターは、1950年代のシットコムに登場する主婦のような服を着、サスペンス映画『ステップフォードの妻たち』(1975)の従順なロボット妻の一歩手前といったところだ。そんなハンターは、ビー玉、画びょう、チェスのこまといった異物を飲み込みはじめ……突如として自信のようなものが湧いてくるのを感じる。極めて大胆不敵なパフォーマンスに支えられた精神障害と体がテーマの『Swallow/スワロウ』は、痛いところを突いてくるだけでなく、いろんなことを噛みしめさせてくれる作品だ。(日本公開:2021年1月1日)



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4位『透明人間

Photo : Universal Pictures

見えないのにそこにいる男を描いた英作家H・G・ウェルズの名作が#MeTooストーリーという形でアップデートされた。セシリア・カシュ(エリザベス・モスのキャリア史上最高の名演であることは間違いない)は、オリバー・ジャクソン=コーエン扮する天才科学者との虐待的な人間関係から抜け出せずにいる。セシリアは身を隠し、恋人は遺体で発見され、すべてがハッピーエンドに向かうと思われた。ただセシリアは、どういうわけか、元恋人がいまも自分を苦しめているという感覚を拭えず、ひょっとしたらその感覚は(物が勝手に動き出す不思議な現象の原因も含め)、実験室で彼が取り組んでいたことに関係しているのかもしれない……。恐ろしいながらも美しい、リー・ワネル監督の計算された悪夢は、普遍的なホラー映画を怒り狂うモンスターよりもっと恐ろしいものに変えている。原因が見えないせいで、苦しんでいると言っても誰にも信じてもらえない、心理的虐待の物語だ。お見事。(日本劇場公開終了



3位『ヴァスト・オブ・ナイト

Photo : Amazon


1950年代のアメリカの小さな町で起きた不可解な出来事を振り返る、スピルバーグ監督ふうの傑作を想像してほしい。そこに天才的な頭脳を持つ若い理系オタク(ジェイク・ホロウィッツとシエラ・マコーミック)、謎の送信信号、そしてひとつまみほどのロズウェル事件のパラノイアを加える。そして予算をカットする代わりに、想像力を大量に注入しよう。アンドリュー・パターソン監督による独創的な長編デビュー作『ヴァスト・オブ・ナイト』は、TVドラマ『トワイライト・ゾーン』シリーズのノスタルジックな第三世代コピーではなく、同作のレトロな魅力を活かす方法をしっかり心得ている(ナレーションの隙間に別世界からのモノクロのTVアンソロジー番組を挿入するなど)。それだけでなく、監督によるSFホラー映画の巧みなボキャブラリー使いは、『トワイライト・ゾーン』の影響をひけらかすよりもっと重要な効果を生んでいる。『ヴァスト・オブ・ナイト』を観る人は、恐怖がふつふつと煮立ち、やがて完全に沸騰するような感覚を抱く。そしてその瞬間、パターソン監督が現代のオーディエンスにいまの時代にふさわしい『Watch the Skies』(1977)のような映画を届けてくれたことに気づく。(Amazon Primeにて公開中)



Translated by Shoko Natori

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