ヒットを量産するTikTok、当事者たちが明かすサクセスストーリーの裏側

TikTokが開拓する新たな可能性

6月末のある日、スウィーティーはちょっとした助けを必要としていた。27歳のラッパーは、ワーナーから最新アルバム『Pretty Bitch Music』をリリースする準備を進めており、先行シングルとして「Tap In」を売り出そうとしていた。楽曲も揃い、大手レーベルのサポートも確保し、熱心なファンもいる。だが、スウィーティーはTikTokの使い方を知らなかった。そこでTikTokの音楽チームがサポートに入り、影響力のあるZ世代TikTokerを6人集めた。TikTokerたちは、動画で使うべきフィルター、最新の動画トレンドをフォローする方法、ティーンのあいだで「Tap In」の人気を急増させる方法をZoom越しでスウィーティーにレクチャーした。


スウィーティー



まるで自分のマーケティング・チームに話しかけるように、スウィーティーは若いクリエイターたちに「Tap In」におけるコーラス“Tap, tap, tap in”に関連した何かをつくりたいと伝えた。「アイデアとサポートを求めていたの」と、スウィーティーがチャットルームから語る。「私はもともとMyspaceユーザーだった。(当時の)レイアウトは最高だったはず。でも、TikTokを使うようになってから老け込んだ気分——本当に、私はどうしたらいいの?」

Pullingravityというアカウント名で活動している美容ブロガーのレナ・マイアは、スウィーティーにTikTokのキラキラのフィルターを使うようアドバイスした———フェイクすぎると思われないように、使いすぎは禁物———「他のどのプラットフォームよりもクールよ」とマイアは言う。「とにかく、楽しんでみて」。

早着替えからメイクのヒントまで、6人のTikTokerたちは、「Tap In」のコーラスとシンクロするコンテンツを果敢に生み出した。元バレーボールのNCAAディビジョン1選手で、ウェルネスや健康関連の動画を投稿しているヴィクトリア・ギャリック(フォロワー数:34万5千人超)は、「Tap In」とバレーボールを合わせるのはどうかと提案した。自身もバレーボール選手だったスウィーティーはギャリックの案を気に入り、自身のページでも同じような動画を投稿した。

Zoomミーティングの1週間後、スウィーティーと6人のTikTokerはコンテンツを投稿した。すると、自分たちの手を借りずに「Tap In」が新たなダンス・トレンドとして浮上するのを目の当たりにした。ダメリオやアディソン・レイといった人気TikTokerによる動画のブースター効果もあり、同楽曲は約1カ月以内に100万本の動画に使用されたのだ。

@anaocto

@ravenelysetv yes honeyyy #rollerskating

Tap In - Saweetie


スウィーティーが行ったようなクリエイターとのミーティングは、TikTokの音楽チームにとってますます日常的なものになっている。彼らは、スウェイ・リーやマライア・キャリーのようなアーティストのために同じようなミーティングを企画した。TikTokのシェリダン氏は、2020年こそドレイクとビヨンセに同アプリ向けのオリジナル動画を作成してもらいたいと語る。ただ現状としては、多くの人気アーティストが新作を宣伝したい時のみ登録するため、実現はまだ先になりそうなこともシェリダン氏は十分理解している。

TikTokにとって、もうひとつの有望な開拓エリアがカタログ音源だ。次に何が流行るかがわかるプラットフォームとしての地位を確立した一方、TikTokは昔の音楽にとっても貴重な存在である。新型コロナウイルスの感染拡大にともなう外出禁止によって幅広い年代のユーザーがTikTokを利用するようになったいまは、なおさらそうだ。2020年以前、カナダのパンクバンド、シンプル・プランの「I’m Just a Kid」は『ニュー・ガイ』(2002年)や『12人のパパ』(2003年)といったコメディ映画でかかるマイナーなヒット曲だった。それが2020年4月、ネット上で流行ったチャレンジ企画のおかげで、リリースから18年を経てプラチナレコードに認定された。さらにTikTokは、L’Trimmによる1988年のマイアミベースの名曲「Cars With the Boom」を2020年の新しいオーディエンスに紹介した。その結果、ワーナーは同楽曲をフィーチャーした新しいコンピレーション・アルバムをリリースしている。


Translated by Shoko Natori

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