川谷絵音が振り返る2020年の音楽シーン

川谷絵音(Photo by Yuuki Oohashi)

「Rolling Stone Japan vol.13」の特集企画「BEST OF 2020 2020年を語ろう」では、激動の変革期となったこの一年のシーンを振り返るべく川谷絵音(ゲスの極み乙女。/indigo la End他)に取材を実施。多作でワーカホリックな作家としての視点、あるいはディープな音楽ファンとしての視点から、国内外の音楽シーンを総括してもらった。

2010年代を総括した昨年に続いて、2020年も本誌年末号に川谷絵音が登場。Spotifyの年間ランキングを基に、この一年の音楽シーンを振り返ってもらった。世界中が未曾有のコロナ禍に見舞われた2020年は、音楽の受容のされ方にも大きな変化が起こった年となった。ライブ/フェスが開催できない、レコードショップに行けない、スタジオに入れないといった物理的な制限はもちろん、普段の行動様式の変化が音楽を聴く手段にも、時間にも、ジャンルにも影響を及ぼした。Spotifyのランキングを読み解くということは、そんな世界の変化を読み解くこととイコールとなる。indigo la Endが結成10周年を迎え、ゲスの極み乙女。としては『ストリーミング、CD、レコード』という象徴的なタイトルのアルバムを発表した2020年の川谷。「日経エンタテインメント!」での連載や「関ジャム」への出演など、論客としての活躍も目立つが、あくまで一音楽ファンとしてのスタンスを感じさせる語り口が印象的な取材となった。

※この記事は2020年12月25日発売の『Rolling Stone JAPAN vol.13』に掲載されたもの。取材は同月初旬に実施。


川谷絵音
2014年、indigo la Endとゲスの極み乙女。の2バンドでワーナーミュージック・ジャパンより同時メジャーデビュー。2015年、ゲスの極み乙女。で「NHK紅白歌合戦」に初出場。その後、DADARAYのプロデュース、インストバンドichikoroの結成、ソロプロジェクト「美的計画」の始動、さらにはSMAPから坂本真綾に至る様々なアーティストへの楽曲提供と、多岐に渡る活動を続けて現在に至る。2020年2月17日にindigo la Endのニューアルバム『夜行秘密』を発売予定。(Photo by Yuuki Oohashi)


コロナ禍が音楽に与えた影響とは?

―Spotifyのランキングを見る前に、2020年は川谷さんにとってどんな一年でしたか?

川谷:こんなに世界全体に、平等に何かが降りかかることって今までなかったですよね。僕が生まれてからは間違いなく一回もないし、オイルショックとかにしてもこんなに平等に降りかかってないですよね。他の国で戦争が起きても、日本は平和だったり。でも、2020年はどこの国も等しくフェスがなくなり、世界中でライブがなくなって、全部がオンラインになって、最初はうーんってなったんですけど……今までみたいにフェスがあると、フェス中心で曲作りをしてる人たちもいたじゃないですか? 「ライブで盛り上がる曲を作ろう」みたいな、そういう観点は2020年消えたのかなって。年末に「COUNTDOWN JAPAN」への出演が控えてるんですけど(編注:取材後に中止が発表された)、蓋を開けてみたらどういう感じになるのか、今まで盛り上げることを第一にやってた人たちが、一体どういうライブをするのか、僕には分からないですね。

―フェスの雰囲気は間違いなく大きく変わるでしょうね。

川谷:運動会みたいなバンドいるじゃないですか? お客さんもみんな運動しにきました、みたいな。あれはもうなくなりますよね。マスクしてライブに行って、運動できなくて。でも、一回楽しくなかったなっていう経験をしちゃうと、もう一回行こうってならないですよね? だから、どうなるんでしょうね。逆に、YOASOBIとかは曲だけ発表して、ライブはやってなくて、むしろそっちの方が時代に合ってる活動の仕方になってますよね。ライブが関係なくなって、楽曲至上主義になって、あとはネット上の見せ方が大事になってきたり。いろいろ変わってきたなって思います。

―音楽の聴き方に変化はありましたか?

川谷:それに関しては全く変化なかったですね。世間では通勤・通学中に音楽を聴いてた人たちが大半で、それがなくなって統計的に聴く時間が減った、みたいな話を聞いたりはしました。でも、僕の場合は"ながら"聴きもするんですけど、毎月音楽の連載もやってるし、新譜のチェックをしたり、それは音楽が好きでやってることだから、あんまり変わってないですね。通勤・通学の時間とかもないですし。


Photo by Yuuki Oohashi

―通勤・通学の代わりに、家で作業をしながら聴く時間が増えて、聴かれる音楽の傾向が変わったというのはあったみたいです。

川谷:コロナで配信のリリースは増えたと思います。ここ数年、ずっと増え続けてたとは思うんですけど、みんなCDのリリースを渋るようになって、サブスクを解禁するアーティストも増えたし、配信がめちゃくちゃ増えて、新譜を追うのが大変になったかもしれない。Spotifyのニューリリースが表示されて、押して、それがアルバムだと「曲数多いな」ってなっちゃう僕がいます(笑)。何から聴いていいかわからないと、人って聴かないんですよね。今って1曲目から聴いてやろうっていう時代じゃなくて、みんな一番いい曲を聴きたいから。でも、Spotifyのニューリリースはわかりやすいし、自分がよく聴いてる傾向に合わせてAIがサジェストしてくれるし、洋邦バランスよく出てくるので、それで知ったアーティストもいっぱいいます。yonawoとかはめちゃめちゃ初期の頃にオススメで出てきて、それで知りましたからね。

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