川谷絵音が振り返る2020年の音楽シーン

川谷絵音の2020年を総括

―最後に、川谷さん自身の2020年について振り返っていただきたいと思います。

川谷:うーん……何もやってなかった記憶しかないんですよね。

―いやいやいやいや。

川谷:でもホント記憶がなくて、あんまりいつもと変わらなかった気もします。




―曲をたくさん作って出すことが、もうデフォルトになってるわけですよね。

川谷:でも、ゲスのアルバムは出たけど、インディゴはコロナの影響で遅れたので、例年よりは少ないんですよ。逆にライブがなかったんで、じっくり作ることができたっていうのはあるんですけど、ライブをやらなさすぎて、ライブ感を忘れてしまって、曲にもそれが表れちゃったというか。ライブをやりながらだったら、もうちょっと違うものになってたのかなとか、自分の中で思うところはありました。ちょっとバランスが崩れちゃったんで。でも最近はライブがちょっとずつ再開して、「こんな忙しかったっけ」みたいな。制作だけならいいんですけど、ライブやって、制作やって、取材入って、テレビ入ってとなると、ウワッてなっちゃうんですよね。12月は3日にインディゴ、6日にゲスのライブがあって、前日に泊まり込みでリハをして、今日が取材、明日が音楽バラエティー、その翌日がお笑い系のバラエティーの収録とか、意味不明じゃないですか?

―川谷さんでしかありえないスケジュールですね(笑)。インディゴやゲス、ジェニーハイなどの活動もありつつ、ここまでの話との関連で言うと、いろんなヴォーカリストを招くソロプロジェクト「美的計画」の動きは、サブスクの時代らしいものだと感じました。

川谷:ボカロPと歌い手みたいなのが増えたので、僕はちょっと違う感じの曲を作ろうっていう気持ちではいましたね。みんなどうしても邦ロック感が出ちゃうじゃないですか? 邦ロック感が拭えないものが多いけど、僕はそういうのは出したくなくて。一番最近出した「だからラブ」に関しては、参加してもらった相沢ちゃんと映秀。くんは若い子が聴いてる人たちですけど、曲調はビートが少なくてヒップホップっぽい感じで、でも歌はキャッチーにしたり。考える時間があったので、いろいろ考えました。



―美的計画はもともと時代感を意識してスタートさせたものだったのでしょうか?

川谷:いや、そこを考えるのはこれからですね。最初はとりあえず、声が魅力的な人に歌ってもらおう、くらいでしかなかったです。サブスクでウケるような曲を作ろうと思えば作れる気がしますけど、狙いに行くのも面白くないというか。「夏夜のマジック」みたいな曲がサブスクでウケがいいのはわかるけど、ここではあんまりやりたくない。美的計画は挑戦の場でもあるので、どんな位置に持って行こうかいろいろ考えた一年でした。やっぱり、誰に歌ってもらうかが大事なので、歌い手とかも含めて、今まで聴いてこなかったような人たちの歌も聴いたし、Twitterで探したりもしたので結構時間は使いましたね。コロナ期間には、TikTokで「#春の歌うま」チャレンジっていうのをやって、そこから相沢ちゃんを見つけたりもして。今って一般人とプロの差がもうないんで。

―レベルの高さを感じた?

川谷:めちゃくちゃレベル高いですね。相沢ちゃんより上手い人って、探してもあんまりいないと思う。

―プロの中でも?

川谷:そうですね。難しいコーラスでもパッと録ってすぐ送ってくれるんで。それってプロじゃないですか? プロよりもプロっていうか、プロの人の方がもっと手こずると思うんです。今の子たちって、みんな甘えがないんですよ。顔の見えないところで、パソコンで録って送るのが普通だから。でもプロの人たちは、意外と「現場に行けば何とかなる」とか「教えてもらおう」とか、そういう甘えが少しはあると思うんですよね。ネット出身の若い子はそれがまったくない。そういう意味でも、もうプロとアマの差はないなって思いました。途中で言った職業作家とかもそうで、いい曲を作る人にプロもアマもないと思うし。

―いわゆるデジタルネイティブの人たちは、歌でも演奏でも作曲でもレベルが高くて、そういう人たちとコラボすることの面白さはありますよね。

川谷:日本はコラボ文化があんまり浸透してなくて、コライトは特にないじゃないですか? そういうこともいろいろやってみたいと思って。だから、さっき言ったようにichikaくんたちと一緒にやり始めたりもしてるんですよね。あと、僕は歌詞を他の人に書いてもらったことが一回もないので、歌詞を分業にしたらどうなるのかなって思ったり。楽曲提供のときは編曲を全部投げることもあるんで、そういうのももっとやってみたいし。

―その流れで言うと、加藤ミリヤさんのトリビュートアルバム『INSPIRE』で、瑛人とyamaによる「Love Forever」のプロデュースを担当していますね。

川谷:あれは結構よかったと思うんですけどね。瑛人くん的にも新しい感じだったと思うし。これはカバーですけど、プロデュースをするときも基本的に(自分で)曲まで作るし、美的計画も僕が作るわけだから、今後は自分で曲を作るシンガーソングライターのプロデュースとかもしてみたいです。すでに完成してる人に対して、何かを与えるみたいな方がホントは得意なはずなので。そういうのも興味がありますね。


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