ヴァン・ヘイレンを発掘したプロデューサー、故エディの素顔を語る「彼は単なるテクニシャンではなかった」

当時のレコーディングを巡る記憶

―バンドとの関係は良好だったようですね。

テンプルマン:アルバム4~5枚目くらいまではすごくやりやすかったね。皆といい関係が築けていたし、全員が自分の役目を果たしていた。デイヴはとにかく独創的だったよ。歌詞は最初のうちは散漫なんだけど、エドのプレイがそれを曲に発展させていくんだ。彼が手を加えていない曲はほぼ皆無だと思う。ソングライターとしての2人の相性は抜群だったよ。ジャガーとリチャーズ、ロジャースとハマースタインが一心同体であるように、エドのコード進行とデイヴの歌詞はまさに黄金コンビだった。さらにエドのリフやソロが、曲にさらなる魅力とダイナミックさをもたらしてた。彼のソロには何度もぶっ飛ばされたよ。

ある日デイヴが、ベティ・エヴェレット「You’re No Good」のカバーをやろうって提案した。僕は彼に、リンダ(・ロンシュタット)が5年前に同じことをやってると伝えた。でも一晩中考えて、僕はエドとデイヴにこう言った。「あの曲の“僕はゆっくりと確かに彼女の心を引き裂いた / 君に似た誰かと恋に落ちて彼女を傷つけた / ようやく分かったんだ あなたが悪い人だって”っていう部分、あれは君らにハマると思う。思いっきりアレンジして、破壊力抜群な曲にしよう。『サイコ』みたいな、悲鳴をあげたくなるようなやつにね。デイヴ、イメージは『サイコ』だ」。完成した曲は、僕がイメージした通りだった。エドのソロにも蜘蛛のような不気味さがある。言うまでもなく、彼のテイクは完璧だったよ。



―バンドは1年に1枚のペースでアルバムを発表し、あなたは最初の6作でプロデュースを手がけました。時が経つにつれて、彼らはどのように変わっていきましたか?

テンプルマン:過酷なツアースケジュールのせいで、彼らは消耗していた。エドが僕に怒りをぶつけたこともあったよ。MTVの影響力が絶大だった頃、デイヴはやたらミュージックビデオを作りたがってた。彼らが「Oh, Pretty Woman」のカバーをやると言ったとき、僕は反対した。僕はあの曲が大嫌いだったからね。でも彼らに押し切られて、結局レコーディングした。曲がヒットしたことで、バンドはレコード会社からアルバムを完成させろとプレッシャーをかけられることになったんだ。それでスタジオに入ったものの、その時点で曲は半分もできてなかった。

エドが温めてたリフを聴いて、僕は「Dancing In The Street」のカバーをやったらどうかって提案した。ハマると思ったし、モータウンのヴァイブが夏にぴったりだったからね。でもあの曲が原因で、僕とエドは衝突してしまった。最初はみんな気に入ってたけど、しばらくして誰かに「君らはカバーなんかやるべきじゃない」って言われたらしくてさ。「Oh, Pretty Woman」だってカバーなのにね。それでエドは僕のアイデアに反対し始めたんだけど、〆切が迫っていたから他に選択肢はなかった。あれが原因で、僕とエドの間にわだかまりができてしまった。決して悪いアイデアじゃないと僕は思っていたんだけどね。でも大きな問題には発展しなかった。



―サウンドから察するに、あのアルバム(『Diver Down』)のレコーディング自体は楽しかったに違いないと思ったのですが。

テンプルマン:つい最近あのセッションのアウトテイクを聴いてたんだけど、「Happy Trails」ではメンバーの笑い声が入ってるのがあってさ。エドが「テッド、笑わせるなよ」って言ってて、僕は姿が見えないよう床に伏せてたんだけど、彼はずっと笑ってた。他にもいろいろと収録されてるんだ。いざレコーディングが始まっても、彼らは笑いをこらえることができずにいた。多少のわだかまりはあったけど、レコーディングは楽しかったよ。

―アウトテイクはたくさんあるのですか? 未発表音源なんかも?

テンプルマン:いや、数はすごく少ないよ。2日かけて作ったあのセッションの最初のデモは僕が持ってる。2日目には40曲くらい録ったんじゃないかな。デイヴがこう言ったんだ。「これで全部だ。必要なら『Happy Trails』を歌ってもいいけどね」。それで本当に、あの曲のアカペラを録ることになったんだ。そのときのデモは今でも持ってるよ。デモの半分を録り終えた初日の時点で、僕は内容に自信を持っていた。僕のすべきことはいい音で録ってやることだけだった。

―エドはバックアップヴォーカルを多数こなしています。彼は自分の歌声にも自信を持っていましたか?

テンプルマン:彼はいい声をしてたよ、あまり知られてないけどね。僕らが一緒に作った曲の中で最もポップなのは「Dance The Night Away」だけど、あの曲では僕とエドとマイクがバックコーラスの大半をやってる。1テイク目はエドとマイク(・アンソニー)だけで録って、2テイク目では僕も加わった。僕はエドのサポート役で、彼と全く同じパートを歌った。僕の役目は少し厚みを加える程度だったけど、マイクの声はパワフルだった。エドは昔、彼のことを「キャノンマウス」って呼んでたらしいよ。彼は歌が得意で、通りの向かい側にいても聞こえるくらいの声量の持ち主だった。マイクは人柄もいいし、ベーシストとしても素晴らしい。彼の演奏はいつも完璧で、バンドにとって不可欠な存在だった。アルも同じで、彼のリズムキープはまるでメトロノームだった。ヴァン・ヘイレンのメンバーは、みんなプロ中のプロだったってことさ。そういうバンドとの仕事はやりやすいよ。


Translated by Masaaki Yoshida

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