ヴァン・ヘイレンを発掘したプロデューサー、故エディの素顔を語る「彼は単なるテクニシャンではなかった」

「Jump」は好きになれない

―エドと仕事をする中で、彼が天才だと確信したのはいつでしたか?

テンプルマン:愚問だね。そんなことはスタジオに入る前から知ってたよ。彼らはみんな僕の自宅のすぐ近くに住んでて、よくデイヴの家の地下でセッションしたよ。僕が「そこはちょっと変えてみよう」みたいに提案すると、エドが「じゃあこれでどうだ?」みたいな感じでさ。彼はクリエイティビティの塊だった。忘れられない瞬間をひとつ挙げるとしたら、「Eruption」のフレーズを聴いたときだね。僕が受けた衝撃をよそに、彼は平然としてた。「これかい? 別にどうってことないよ」みたいなさ。初めてのリハーサルの場でも衝撃を受けたけど、Starwoodでのショーを観た時点で、僕は彼が天才ギタリストだってことを確信してた。それまでにもいろんなギタリストと仕事をしたけど、彼のようなプレイヤーは見たことがなかった。アート・テイタムやチャーリー・パーカー級の逸材、そう思ったよ。

―彼はギタープレイ以外の面でも才能を発揮していました。

テンプルマン:音作りもすごく独創的だったね。フットペダルをテープでくっつけたりして、音を自在に操るための工夫をしてた。許容量以上の交流電流を送ることでアンプのパワーを最大限に引き出したりと、彼は独自のやり方で自分の欲しい音を作ってた。それでも、彼の最大の魅力はやっぱりプレイスタイルだった。彼のタッピングは革新的で、まさに神技だった。ステージであれを観たときは、開いた口が塞がらなかったよ。あんなサウンドは聴いたことがなかった。しかもそれをソロの途中で繰り出したりするんだからね。最初のデモを録ったとき、ソロにあのタッピングをちりばめてて度肝を抜かれた。彼は正真正銘の天才さ。ドゥービー・ブラザーズやヴァン・モリソンなど、僕はいろんなギタリストと仕事をしていたし、ロニー・モントローズなんかは非の打ち所のないプレイヤーだった。それでもエドのプレイを観たとき、僕はこう思ったんだ。「こいつは完全に別格だ。次元が違う」

―ヴァン・ヘイレンのメンバーが不仲だったことはよく知られています。あなたが喧嘩の仲裁に入ることはよくありましたか?

テンプルマン:いいや。彼らは喧嘩してたわけじゃなくて、ただ反りが合わなかったんだよ。原因はおそらく、キャリア初期のデイヴの横柄な態度だと思う。彼は(興行師の)P・T・バーナムみたいだった。「俺たちは何としてもこのチャンスをものにしないといけない。エド、お前はこの服を着ろ。アル、お前はこれをやれ」みたいなさ。バンドがスタジアムでショーをやるようになってから、エドは時々アルからドラムスティックを投げつけられてたらしいよ。ただ突っ立って弾くんじゃなく、もっとステージ上を駆け回れっていうメッセージなんだって彼は言ってたけどさ。

僕はエドが有名になる前から彼のことを知ってる。他のメンバーが彼の結婚に反対したときは、友人として彼から相談を受けたよ。「テッド、俺はどうすべきだと思う?」と聞かれて、僕はこう言った。「周りのやつらの言うことなんか気にするな。彼らが君の生き方に口を出す権利なんてない。君が今すぐここを出ていくと言うなら、僕もついていく」。その夜に、僕はヴァレリー(・バーティネリ:エドの最初の妻)と初めて会ったんだけど、「テッド、本当にありがとう」って言われたよ。まるでバンドが彼の結婚の是非を決めようとしているみたいで、僕はこう言わずにはいられなかった。「君の人生だ。メンバーに口出しなんかさせるな」。あのときのことは、彼もずっと覚えてるみたいだった。それ以来、僕と彼は友人どうしになり、誕生日には互いに電話をかけるようになったんだ。



―エドと意見が対立したことはありましたか?

テンプルマン:僕らが唯一争ったのは「Jump」を巡ってだ。僕はあの曲が好きじゃなかったし、今もそうだ。

―今でも「Jump」が嫌いだと?

テンプルマン:好きになれないね。自分でプロデュースしてるんだから馬鹿みたいだけど、あのキーボードが最初から気に食わなかった。エドが真夜中に電話をかけてきてこう言ったんだ。「テッド、君に聴かせたい曲があるんだ。今から行くから」。彼は夜中の3時にポルシェでセンチュリーシティまでやって来て、僕を拾ってスタジオまで連れていった。「これを聴いてくれ」。そう言って彼がかけたのが「Jump」だった。ドンが手伝ってたから音は申し分なかったし、僕は「いいんじゃない」って返した。翌朝、僕はデイヴに歌詞を書くように言った。マーキュリーのバックシートで彼が書いた歌詞を読んで、僕は思わず「これはひどい」って口にしてしまった。ピーター・クック&ダドリー・ムーアっていう2人組のコメディアンがいるんだけど、燃え盛るビルに閉じ込められた男に「グズグズするな 僕たちが広げたこのブランケットの上に飛び降りろ」って呼びかける曲があるんだ。だから僕はこう言った。「『Jump』っていうフレーズはやめよう。誰かに飛び降り自殺を勧めてるように聞こえる」。すると彼はこう言った。「いいや、このフレーズは決まりだ。意味が2つあるんだよ」。それは事実で、「チャンスに賭ける」っていう意味の他に、ある女の子をモノにするっていう彼の個人的なメッセージが込められてたんだ。

でも僕は、トレンドだったあのキーボードのサウンドが好きになれなかった。No.1ヒットになったんだから僕が間違ってたんだろうけど、今でもあの曲は聴かない。僕が考える彼らの魅力は、ヘヴィメタルバンドでありながらポップな曲を書けるところだったけど、あれは完全に一線を越えてしまっていた。アリーナを満員にするようなバンドの曲みたいだと思ったけど、実際にあれはあちこちのアリーナで試合前に流れるようになった。要するに、僕が間違ってたってことさ。

―あなたの好きなヴァン・ヘイレンの曲は?

テンプルマン:「Panama」と「Ain’t Talkin’ ’Bout Love」だね。

―どちらも優れたギターソングですね。

テンプルマン:彼がお粗末な曲を書いたことなんてほとんどないよ。

Translated by Masaaki Yoshida

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