田中宗一郎×小林祥晴「米ローリングストーン誌の年間ベストから読む2020年の音楽シーン」

ラテン圏、韓国、西アフリカに脚光

田中 各地ローカルや各ジャンルの動きも個別に見ていきましょう。日本だと我々がアジア人だということも関係しているのか、BTSとBLACKPINKのブレイクにフォーカスがあたりがちなんだけど、今年一番ストリーミングで聴かれたのはバッド・バニーだった。つまり、ダンスホールからレゲトンというラテン音楽の流れが2010年代を経て完全にデフォルトになった1年でもあった。

Bad Bunny – YHLQMDLG


小林 バーナ・ボーイが全米でそれなりにブレイクしたのも驚きでした。去年までは英国中心の人気だったのが、ナイジェリアの訛りを持った彼のサウンドがようやく北米にも飛び火したという。

Burna Boy – Twice As Tall


田中 彼はドレイクが西アフリカのサウンドを取り込もうとした『More Life』の中で、もともと「More Life」っていう曲を一緒に作っていたんだけど、そのタイトルも取られてしまうわ、参加していた曲の自分のパートは全部外されてしまうわ、踏んだり蹴ったりだったんだけど、今年はついに2010年代半ばからのUK経由の西アフリカのサウンドがようやく共有されることになった記念すべき年になった。

小林 最近は海外の記事を読んでいても、ナイジェリアのアーティストの特集を目にすることも増えて。バッド・バニーやK-POPがブレイクしたこともあって、グローバルミュージックに対する注目がアメリカ国内でも本格的に大きくなってきているのを感じます。

田中 ダンスホール以降のサウンドをローカライズしたナイジェリアのファイアボーイDMLとか、以前からガーナのテイストを持ち込んでいたJハスのアルバムも今年らしいレコードのひとつだった。まあ、その後、ヘディ・ワンが全部かっさらった感はあるけど。

Fireboy DML – APOLLO


J Hus – Big Conspiracy


小林 K-POPに関してはそんなに詳しくはないんですけど。でも、BTSとBLACKPINKだけを見ていると、去年までと戦略がちょっと変わった気もしてて。どちらもアメリカでもう一段上の成功を手にするにはどうすべきか?というモードに入った。で、BTSの場合は「Dynamite」っていう全編英語詞の曲を出して、実際に初の全米シングルチャート1位を獲得。一方のBLACKPINKは、アリアナ・グランデや彼女のソングライティングパートナーと「Ice Cream」っていう曲を作った。

BTS - Dynamite


BLACKPINK – Ice Cream with Selena Gomez


田中 K-POP特有のサウンドというよりは、北米メインストリームのサウンドにかなり寄せた曲とも言えるよね。2013年のアヴィーチーのメガヒット「Wake Me Up」をなぞったようなギターストロークと四分打ちビートを組み合わせた「Lovesick Girls」とか。

BLACKPINK – Lovesick Girls


小林 ただ、K-POPに限らずバッド・バニーとかスペイン語圏の音楽もそうなんですけど、彼らの新しかったところって、自分の国のローカルのサウンドに乗せて、自分の国の言葉で歌いながら、ちゃんと北米マーケットでも結果を残してきたことじゃないですか。それって、かつてだったら信じられないくらい理想的なことで。だから正直、「Dynamite」とか「Ice Cream」を最初聴いたときは若干戸惑ったんですよ。でも、この前BTSが出したアルバム『BE』はいわゆるK-POPとも違うし、BLACKPINKがやったような北米メインストリームに寄せたサウンドとも違う、新機軸のサウンドをしっかりと打ち出していた。ブラストラックスとかコスモズ・ミッドナイトとか、プロデューサーもかなり挑戦的な人選だし。だから、BTS凄いな、と素直に思いましたね。

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