THE BLUE HEARTSを読む、悲しみと孤独から始まった人の絆を歌ったバンド

なぜこの曲で始めたのかというと、久々にこの曲を思い出して、聴きたいなと思いました。そのきっかけになった、去年の秋に発売になった本「ザ・ブルーハーツ: ドブネズミの伝説」という本がありました。お書きになったのは、音楽のことをずっと書いてこられた方ではなく、フランス文学者でもあって、立教大学の教授、文芸批評家の陣野俊史さんという方です。その方がTHE BLUE HEARTSのことを書いています。ありがちなインタビュー集ではありません。歌詞を中心に、THE BLUE HEARTSとはどんなバンドだったのか? というのを読み込んでいく。公式レコーディング曲の全114曲の歌詞を縦書きにしてから読み始めた、という始まり。その歌詞と曲を軸にして世の中に既に出ているTHE BLUE HEARTSのインタビューや本からの発言を引用しながら当てはめていくんですね。さらに、1985年から1995年にあった世の中の出来事や社会的な背景も織り込んでいくんです。しかも、文芸批評家ですから、他のジャンルの評論家らが同じようなテーマをどう書いているのかということも触れている。評論なんだけど、独りよがりになっていない。この人は、THE BLUE HEARTSが好きなんだなと思わせてくれる本だったんです。読み応え充分です。

今月は、コロナで家にいる時間が増えて、前より音楽が増えている方もいらっしゃると思うんですが、そこに音楽を読むという行為、時間を考えてみてはいかがでしょう? という音楽本特集です。今日はその1週目ということで、この本、「ザ・ブルーハーツ: ドブネズミの伝説」を素材にしながら、THE BLUE HEARTS特集をしようと思います。そして、後ほど陣野さんにも電話出演していただきます。まずはこちらの曲をお聴きください。この本のタイトルにもなっているフレーズが入っている曲です。1987年5月発売、メジャーデビューの曲です。「リンダリンダ」。

リンダ リンダ / THE BLUE HEARTS

田家:衝撃のメジャーデビュー曲ですね。「ザ・ブルーハーツ: ドブネズミの伝説」の著者、陣野さんは「この歌を聞いた時の衝撃をどんな風に表現していいか、正直今も分からないし、私の能力を超えていると思う」と、書いてます。私の能力を超えていると謙虚に言いつつ、THE BLUE HEARTSについてずっと書き進めているという本です。

色々なデビュー曲の衝撃はありますが、1980年代の「リンダリンダ」は他の曲とは違う、聴いた人が、「あ、聴いたことのない曲に出会ったな」というインパクトのあった曲ですね。これは世代によっても体験は違うんですが、私で言えばエルヴィス・プレスリーがそういう存在でした。でも、「リンダリンダ」はエルヴィス的なロックンロールとは違う強烈なインパクトがあった。その一つは言葉ですね。「ドブネズミみたいに美しくなりたい」という言葉と、甲本ヒロトさんの歌い方。あれは、エルヴィスの衝動に身を任せているような、肉体が音楽にのりうつっているような歌い方をさらに端的にしている。時代の病んだ部分を自分が体現しているような感じがあって、誰も出会ったことがない音楽を聴いたという感じがしました。そして、今日紹介しようとしている「ザ・ブルーハーツ: ドブネズミの伝説」は、ドブネズミというのがキーワードになっています。それがどういう意味なのか? この後、お話を進めていこうと思います。

Rolling Stone Japan 編集部

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